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2010年2月 2日 (火)

ゑひもせす

/杉浦 日向子/

江戸研究家の著者は、駆け出しの頃、漫画を描いて口糊をしのいでいた。
最初の作品は『合葬』、1984。
それが見当たらないので、1990年のこの作品をまずご紹介する。
なにしろ彼女の作品は、いずれをとっても(たとえば『ソバ屋で憩う』)、おもしろい。

さてこれは『現代浮世絵師』と呼ばれた著者が、温かみのある図柄と斬新なストーリーで、他の誰にも真似ができない新鮮さをもって『江戸の庶民たち』を描いていたものである。

たとえば実らぬ初恋にじれながら嫁入りする箱入り娘、
若い頃の熱血ゆえに家族に迷惑をかけ自分は死にそこなった坊主の昔語り、
おいらんと武骨者のやりとり、
おいらんと薄情な男の色気たっぷりなやりとりなど。

全体的にのんびり、ふんわり、おっとりとした登場人物が多く、なごめるストーリーがほとんどである。
しかし最後の『吉良供養』は、まったく異なる。
ほとんどセリフのないまま、説明文および『どかん、どかん』『ぐっ』『あっ』といった擬声音中心に話が進んでゆく。
全編これ首が飛び、血しぶきが舞い、すさまじい限りである。

有名な『赤穂浪士討ち入り』の庶民向けストーリーを、まったく別の視点から分析し、一方的かつ理不尽な大量殺戮として描いたものである。
『江戸研究家』としての綿密な資料の裏付けとオリジナルな理論展開とで、説得力をもって歴史の再認識をつきつけてくる。
分析の鋭さとアイデアの斬新さは、気味がよいほどである。
江戸時代のマスコミによって祭り上げられた加害者の理論に対し、被害者の立場から事件を描き直し、見直しを要求するのである。

あとがきは、『自称若旦那』の夏目房之介。
漫画家。そして夏目漱石の孫。
この人もいろいろおもしろそうだ。



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