« ゑひもせす | トップページ | 凍 »

2010年2月 3日 (水)

闇の左手

/アーシュラ・K・ル・グィン/

1969年に発表され、グィンのSF作家としての名前を確実にした一冊。
これをSFでないと酷評する人もいるけれど、私はとても素晴らしい作品であると思う。

コミュニケーション・ツールである『アンシブル』以外の機械類はほとんど出てこないが、著者は『ゲセン』という惑星の環境と、そこに暮らす人たちの両性具有という生態、それに関わって生じる特殊な社会と心理、そして外交使節として訪れたゲンリー・アイとの心の交流を細やかに描いている。

惑星ゲセンでの人々の暮らしは、ところどころに『民話』を挿入するという手法によって、物語の語り手ゲンリー・アイの観察者として見た目による情報だけでなく、地の文化を生で紹介してもらうという形で把握することができ、読者が『ゲセン』の歴史と人々の考え方や感じ方をよりよく理解できるように書かれている。

ゲンリー・アイは、主人公エストラーベンとともに、厳しい大自然の中を大移動する。
ここは雪と氷に閉ざされた世界だ。
『ゲセン』という惑星は、初期の入植者たちが両性具有という遺伝的実験を試すきっかけとなり、果ては中央社会『エクーメン』との交流が途絶えてしまう原因となった程寒さが尋常ではないところなのだ。
当然2人は生きることの限界にまで追い込まれる。
そしてそのとき2人の間には深い心の交流が生まれる。



タイトル『闇の左手』とは、闇と対になるもののことである。
『男と女』(そして両性具有)、『生と死』、『ゲセン人と非ゲセン人』、『光と闇』、『右手と左手』。
2人は、これらの違いを乗り越えたところにお互いの理解を見つけようと、葛藤する。

ゲセンの詳しい設定と描写が横糸ならば、この対立するイメージたちが横糸となり、著者はこの物語を細かい目で丁寧に織りだしていく。
あとがきで(おそらく)訳者は、『ル・グィンの作品は、みごとに織りあげられたタペストリーを思わせる。』と書いている。
西洋文学にありがちな『二者対立』というモチーフが、グィンの作品の中ではテーマというよりシンボルとして扱われ、あまり気にならない。
むしろ対立するものの中にあってもそれに縛られまいとして、個人レベルで葛藤する者たちの物語なのではないかと思っている。

グィンのSFはこれが3冊目であり、すべてが遥かな未来の『エクーメン』とよばれる宇宙連合の時代を舞台としている。
著者はその後もSFをいくつか発表し、さらに1968年から『ゲド戦記』などのファンタジーも発表している。
奥の深い作家である。


にほんブログ村 本ブログ 読書備忘録へ
にほんブログ村

クリックしてくださると、励みになります。
ありがとうございました。



私の文庫本(登場人物の一人がこちらをじっと見ているアップ)よりこちらのカバーの方が、物語の中身をいろいろ想像できて好きです。

|

« ゑひもせす | トップページ | 凍 »

SF」カテゴリの記事

コメント

 学生時代にSFファンの友人がすすめられて一読しました。懐かしい。
 その後『ゲド戦記』を読んで、再読しなくては、と思っていましたが、行方不明のままです。

投稿: 風紋 | 2010年2月 6日 (土) 01時28分

うわぁ!
初コメントありがとうございます!
ぜひ書庫を探して、再読してください。
私はこのブログを書くために再々読しましたが、やはり良い本は読後の余韻も素晴らしいです。

投稿: 趣味の本屋 | 2010年2月 6日 (土) 22時45分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/551582/47472124

この記事へのトラックバック一覧です: 闇の左手:

« ゑひもせす | トップページ | 凍 »