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2010年2月11日 (木)

ハチはなぜ大量死したのか

/ローワン・ジェイコブセン/

たくさんのデータ、慎重な分析をもとに、とても綿密に書かれた科学書。
ミツバチの生態のみならず、現代社会の農業のありかた全般にまで言及する、幅広い視野で書かれている。
2009年1月発行。
雑誌の見出しのようなタイトルから連想される、大衆向け情報誌とは一線を画している。
(多くの人が邦題よりも、原題の『実りなき秋』にすれば良かったのに、と残念がっている。私もその一人だ。)

出だしは、不気味な事件から始まる。
2006年から世界中を席巻した、セイヨウミツバチの大量死についてである。
死というべきかもわからない。
巣箱から大量の蜂蜜を残したまま、ミツバチたちが消えてしまったのだ。
はじめ自分が飼い方のどこかで誤りを犯したのかと恥じていた養蜂家たちは、この現象が世界的なものだと知ってあわてる。
原因は何だろうか。
地球温暖化?
遺伝子組み換え作物?
それとも、オゾン層の破壊?

この本では、簡単に結論に飛びつかず、まずミツバチたちの生活から詳しく説明をしている。
その中で、53ページから4ページほどにわたって書かれた、さなぎから孵ったばかりのミツバチの立場から見た世の中の描写が好きだ。
みつばちマーヤの冒険のように、ミツバチの目で世界を描いている。
まるで童話のような1シーンだが、まさしくミツバチの生活なのだ。
仕事に従事し、突然命を失う。
わずか6週間の短い生命の物語だ。

この本は、大量死の原因を1つに絞り、糾弾するために書かれたのではない。
考えられる要因はさまざまだ。
農薬、ミツバチを家畜として受粉作業に従事させることなど。
多くの資料にあたり、現場を訪れて養蜂家とともに巣箱を観察し、現代のミツバチたちが置かれている状況が次第に明らかになっていく。アメリカのミツバチたちが、家畜としてこんなに利用されているとは、まったく知らなかった。
原因を追及する謎解きもスリリングで、読み始めたらやめられない。

結果的に、原因は絞れない。
考えられる要因は複数あり、それらが複雑に絡み合っているのだ。
しかも、1つひとつの要因がそれぞれ絶望的な状況にある。
私たちはもう、蜂蜜を手に入れることができなくなるのだろうか。
果物は実らなくなり、アーモンドなどの種子も食べられなくなる日がくるのだろうか。

後半で著者は、あるひとりの養蜂家に注目をする。
人里離れた山奥で、薬品に頼らないで大量死からミツバチたちを守ろうと孤高奮闘している男だ。
そして著者自身もその男からミツバチを分けてもらい、自分で飼ってみることにする。

さらに、地球の歴史という観点から、花と動物たちの関係が語られる。
花は世界中にあるように見えるが、カンブリア爆発以降生命の歴史が6億年ある中で、花が誕生してからはわずか1億年しか経っていない。
4億年前に陸上に生物が出現したが、2億5千万年前に始まった恐竜の時代初期には、まだ被子植物が現れていなかったのだ。
ひたすら緑色の植物の中で、草食動物たちは葉や芽、根、そして裸子植物の種子を食べて生きていた。

果実をつくる植物があらわれてから、現代までの1億年の中で被子植物たちは(主に)昆虫との関わりの中で受粉システムを改良し、その種類を3千種から40万種にまで増やした。
多くの動物たちとの共生を図った種もあれば、1種類の生物に特化し、巧妙なからだの造りと匂いで花粉を媒介せてもらっている種もある。
普段我々が気付かない見方で植物と動物の関係を分析している、著者の視点が鋭い。

さらにその紹介が、また巧みである。
分かり易い比喩で説明をしてくれる。
たとえば、『専門店』を目指さなかったタンポポを、『マクドナルド』として紹介している。

『とはいえ、あらゆる花が専門化したがっているわけではない。ときにはマクドナルドになったほうが得なこともある。あてにできる営業時間、誰でも入れる店舗、手軽な料金、待ち時間ゼロ。もっともそそられる食事ではないかもしれないが、それでも店には、誰にも好まれるメニューが用意されている。どこにでも咲いているタンポポがこの例だ。タンポポの開店時間は午前九時。ちょうどほとんどの授粉昆虫が仕事を始める時間だ。そして夕方には閉店する。雨の日は、客も少ないし売り上げも期待できないから、ほかの多くの花と同じように休業する。どこにでも目に付く黄色い円盤状の花は、タンポポバージョンのマクドナルドのM看板だ。タンポポの黄色い色は万人好みだし、丈の短い花は、小さなハエからマルハナバチまで、あらゆる顧客が簡単に手に入れられる花蜜を提供する。その反面、タンポポにはそれほど花蜜は詰まっていないから、もっといい花蜜を得る手段を持っている客は他へ行ってしまうだろう。』


巻末に『エピローグ』として、確かな証拠はないので本文には入れなかったが・・・という幾つかの提案がある。
これからのミツバチたちと蜂蜜に希望を持たせてくれる、実に魅力的な提案だ。
さらに訳者、中里京子さんも、その後に一筆添えてくれる。

私たちの現代の生活に警鐘を鳴らす本ではあるけれど、読後の感想はさわやかで、前向きな気持ちにさせてくれる。
たとえばマンション暮らしの私に今は叶わないことだけれど、いつか私もミツバチを飼ってみたい気持ちになる。


amazon.co.jp の商品説明も、地図があって分かり易かったです。↓
ぜひご覧ください。



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