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2010年2月22日 (月)

鼻行類

新しく発見された哺乳類の構造と生活
/ハラルト・シュテュンブケ 著    日高敏隆/羽田節子 訳

最初に発行されたのは、1961年。
翻訳には1972年版を用いたそうである。
訳者は、ソロモンの指環も翻訳している。

内容は、近年になって新しく発見された哺乳類の中でも独特なグループ(目)に属する『鼻行類』の生態に関するレポートで、綿密な資料と図版によって裏付けされた学術書である。
目というのはかなり大きなグループで、たとえば食肉目(ネコ目)にはネコの仲間はもちろん、イヌやハイエナ、クマ、イタチ、スカンク、レッサーパンダ、アシカ、アザラシなどが含まれる。
これだけ大きなグループの発見がなぜこんなに遅れたのかというと、鼻行類が南海のハイアイアイ群島にのみ分布し、その群島そのものが1941年まで知られていなかったからである。
最初の発見者は日本軍の捕虜収容所から脱走し、総面積1690平方キロメートルのこの群島を発見したのだ。
そしてこの島の唯一の哺乳類が鼻行類だったのである。

鼻行類(ハナアルキ)の特徴は、鼻が特殊な進化をしているという点である。
現在14科189種が発見されているが、ほとんどが鼻を運動器官として用いている。
ガラパゴス諸島のダーウィン・フィンチは嘴が多様に進化したが、ハナアルキの多様性はさらにすごい。
ムカシハナアルキだけは、トガリネズミに似た生活と体型で、鼻は強大だが餌を採るときにのみ用い、移動には四肢を使う。
他の種は、鼻を使ってナメクジのようにはいずるもの、移動せずに鼻を地面につけたままで暮らし尾から出す分泌物で小さな昆虫をおびき寄せて捕食するもの、水中に住んで長く伸びた鼻を呼吸器に使うもの、関節のある鼻を使って跳ねまわるもの、大きな耳でハチのように羽ばたきながら飛びまわり長い鼻で蜜を吸うもの、逆立ちをして4本の鼻を地面につけ歩きまわるもの、6本の鼻を周囲に長くのばして広げ昆虫などを捕食をするものなど、形態から生活様式まで多岐にわたる。
食性も、主に昆虫食だが、プランクトン食から果実食、風変わりな共生までいろいろである。
大きさも、シャコ貝に寄生するごく小型のものから、体長2m以上のものまでいる。
全113ページ中の84ページまでが、各グループの移動方法、食性や生殖などに関する報告で、そのあと1940年代と50年代の参考文献が続く。

ところが『あとがき』に、ゲロルフ・シュタイナー博士によって、残念なことが書かれている。
この学術論文がまさに出版されようとしているとき、ハイアイアイ島は秘密裡に行われた核実験によって消滅したというのである。
そして同時に、著者ハラルト・シュテュンブケをはじめとする国際調査団や多くの資料、そしてハイアイアイ島の生物たちも失われてしまったのである。

そのあと、偶然見つかった1930年代の研究者のノートから転載され、飛行性の鼻行類『ジェットハナアルキ』の骨格構造や飛行システムについての論文が載っている。

実に驚くべき動物たちで、発見されて20年もしないうちに絶滅動物になってしまったのが惜しまれる。

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私のは思索社1987年の出版ですが、今は平凡社からのものが手に入ります。

  
思索社1989年(左)も博品社1996年(右)も絶版です。

ここからネタばれになります。





すでにお気づきかと思いますが、この『鼻行類』は壮大なフィクションなのです。
日高さんが翻訳しているので、騙されてしまう人もいるかと思います。

論文としての形式も整っているし、分類や生態も詳細にわたっていてソツがなく、入念に練り上げられた設定です。
鼻行類そのものの形態がかわいらしく、ファンタジーとしても十分楽しめますが、科学的な思考ゲームとして味わう醍醐味は、他に追随を許さないところです。


『シュテンプケ氏の鼻行類 分析と試論―考察・資料―』は、1986年に『鼻行類』発行25周年をきっかけに出版されたものである。
もちろん、『鼻行類』の著者シュテンプケ氏の了承の上である。

前半は『鼻行類』という本の分析である。
生物界の奇妙さは自然界に広く実例を持ち、決して鼻行類という設定は珍奇なものではないこと。
鼻行類という設定は、シミュレーション・ゲームとして多少無理はあるが、絶対あり得ないとは言い難い。
それが、追試をできない多くの生物学の理論(たとえば進化)の弱みであり、そこを浮き彫りにしているという点にもこの作品の価値がある。
そして科学は確かに真面目なものではあるけれど、科学者たちの遊び心によって発達してきた一面も持っているのである。

後半は、シュタイナー氏へのインタビューと氏による寄稿文、出版社によせられた投書とその回答などの資料である。
『鼻行類』のアイデアがどのように誕生したのかといういきさつや、この本が出版されてからの反響などを知ることができる。
中には、科学者が大衆を騙してよいものか!と憤慨している人もいたのである。

本書を『鼻行類』とセットで読むと、2倍おもしろくなること請け合いである。

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コメント

 この本、刊行時に朝日新聞の書評で紹介されました。食指が動いたのですが、当時べつの分野に力をいれていたので買わずじまい。文庫入りしたはずですが、結局、読まずじまい。
 こうして、紹介されると読んでみたくなりますね。
 レオ・レオニ『平行植物』も類似の本らしいのですが、こちらも未読です。
 

投稿: 風紋 | 2010年2月22日 (月) 08時48分

レオ・レオ―二の本は、知りませんでした。
教えていただき、どうもありがとうございました。
こういった本は、図版を眺めているだけでずいぶん楽しめます。

投稿: 趣味の本屋 | 2010年2月23日 (火) 21時02分

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