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2010年10月 3日 (日)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま14

さて、クレアの話です。

それは、ロジャー達がリッジを発つ数カ月前のことだった。
ある夜寝付かれなくて、ロジャーは林の中に出てうろつくうちに、くぼ地一杯に咲き乱れた白い花の中にひざまずいているクレアに出会った。花はまるでクレアを取り巻く霧のようだった。

ロジャーは座って、クレアが花の茎を折り取り葉を剥いてバスケットの中に集めている間、彼女を眺めていた。
彼女は花には触れなかったが、その下に生えている何かを引っ張っていた。

「この花は、夜集めなければいけないのよ。」と、しばらくしてから彼女は言った。
「月のない暗い夜がいいの。」
「僕はまさかあなたが・・・」とロジャーは言い始めたが、突然止めてしまった。
クレアは笑った。
「まさかそんな迷信を信じて、私が薬を集めているとは思わなかったんでしょう?」と、彼女は尋ねた。
「違うわ、ロジャー。私と同じくらい生きれば、あなたも迷信を信じはじめるでしょうね。でもこの花は・・・」
彼女の手が動き、暗闇に青白く輝いた。
そしてやさしく汁気たっぷりの一折りで茎を折り取った。
突然豊かな香りが空気を満たした。
それは花のやわらかい香りに重なって、鋭く打ち寄せてくるような匂いだった。

「昆虫が特定の植物の葉にやってきて、卵を産むのは知っているわよね?
植物は虫たちを寄せ付けないために、強い匂いがする物質を分泌するのよ。その必要が最大のとき、物質の濃度も最高になるの。折良く、この殺虫効果のある物質は、薬としてもとても大きな効果を持つのよ。この特別な植物にとって重要な問題なのは、」
クレアは彼の鼻の下を、羽のような茎でこすった。
それは新鮮で、湿っていた。
「ガの幼虫なの。」
「ゆえに、その植物は夜遅くにより多くの物質を分泌するというわけである。なぜならば、その時刻に毛虫たちが餌を食べるからだ、というわけですか?」
「その通りよ。」
茎が引っ込められ、彼女のカバンの中に放り込まれた。モスリンのこすれる音がした。
「そして、植物のいくつかは、ガに授粉してもらうのよ。つまり・・・」
「夜花を咲かせるタイプ」
「でもほとんどは、昼行性の昆虫に悩まされているので、明け方に有益な物質を分泌するのよ。日が高くなるにつれ、その濃度は濃くなっていくの。でも陽が熱くなりすぎると、葉からその油分が蒸発を始めるので、植物は分泌をやめてしまうの。だから香りのある植物のほとんどは、早朝に集めるといいのよ。というわけで、シャーマンやハーブを扱う人たちは、ある植物は月のない晩に、ある植物は日中に集めるように教えたの。こんなふうにして、迷信が出来上がっていったのよ。わかった?」
クレアの声はそっけなかったが、少し楽しんでいるようだった。


さすが、もと海洋生物学者さん、こういった生物のエピソードが楽しいです。
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ロジャーは座って、クレアが手探りしているのを見ていた。
彼の目も慣れてきたので、クレアの姿をたやすく見分けることができたが、顔の詳細は隠れていた。
クレアは少しの間働き、それから座ってのびをした。
ロジャーは、彼女の背中が鳴る音を聞いた。
「私、一度彼を見たわ。」
彼女の声はくぐもっていた。
彼女は彼から顔をそむけ、垂れ下がったシャクナゲの枝の下をつついていた。
「彼を見た?誰を?」
「国王よ。」
クレアは何かを見つけたようだった。
彼女がそれを手繰り寄せるために葉がこすれ合う音がし、次に枝を折りとる音がした。
「国王はペンブローク病院へ、兵士の慰問に来たの。私たち一人ひとりに、個別に話しかけたわ。看護婦や医者のそれぞれにね。もの静かな男だったわ。威厳があったけれど、彼独自のスタイルではあるけれど、暖かみのある人柄だったわ。彼が何と言ったかは、忘れてしまったわ。でも彼の話で元気が出たわ。彼がそこにいる、というだけでね。わかるでしょ?」
「うーん。」
彼女がこのようなことを思い出すのは、戦争がもうすぐ始まるからなのか?
「ある新聞記者が、女王に子どもたちを連れて疎開するのか聞いたわ。多くの人がそうしていたもの、知っているわよね?」
「知っている。」とロジャーは言った。
突然、彼の心の中の目に、2人の子どもたちが見えた。
男の子と女の子、細面で物静か、見覚えのある暖炉のそばにお互い身を寄せ合っていた。

「僕らの家に、2人いた。インバネスの僕らの家に。おかしいな、たったの今まで、ずっと忘れていた。」
しかし彼女は注意を払っていなかった。
「女王は、言ったわ。私は完璧には引用できないかもしれない、でも彼女の言った要点は、こういったことよ。」
「『そうね、子どもたちは私と別れられないし、私は国王と別れられないわ。そしてもちろん国王は、ここを去れないわ。』
ロジャー、あなたのお父さんは、いつ殺されたの?」
クレアが何を話すと思っていたのかにしても、この話ではなかった。
質問があまりにも唐突だったので、一瞬意味がわからなかった。
「なんですって?」
しかし彼女の声は聞こえたので、超現実的な感じを払いのけるために頭を振ってから、答えた。
「1941年の10月です。確実な日付までは、はっきりわからないのです。いえ、待って、やっぱり覚えています。ウェイクフィールド叔父が、家系図に書きこんでいました。1941年10月31日です。でもなぜ?」
ロジャーは、「神の名において、なぜ?」と言いたいところだったが、日常生活での冒涜的な言葉は慎もうとしていたのだった。
いろいろな考えがランダムに浮かんできて気持ちが逸れるところだったが、それを抑えて、とても静かに繰り返した。「なぜ聞くのですか?」

「あなたは、お父さんがドイツで撃たれたと言っていたわよね?」
「ドイツから帰ってくる途中の海峡の上でです。そう言われてきました。」
彼は月明かりの中で、彼女の輪郭はわかったが、表情までは読めなかった。
「誰があなたに話したか、覚えているの?」
「たぶん、叔父です。でも、母だったのかもしれない。」
非現実的な感じは薄れ、彼は怒りを感じ始めた。
「それが、何か?」
「たぶん、何でもないのよ。私たちが最初に会った時・・・フランクといっしょにインバネスでっていうことだけれど、そのとき牧師さんは、あなたのお父さんが海峡の上で撃墜されたって言ってらしたわ。」
「そうでしたね、で?」
『だから、何っだっていうんですが?』という言葉は口にされなかった。
でもクレアははっきりと捉えることができた。シャクナゲの方から、笑いとはいえない鼻をならす音が聞こえたからだ。
「その通りよ。それは大したことじゃないわ。でも、あなたも牧師さんも、お父さんがスピットファイヤーのパイロットだったって話してくれたわよね?」
「はい。」
ロジャーは、なぜだか首の後ろに居心地の悪さを感じ始めてきた。まるで誰かが背後に立っているようだ。
ロジャーは咳を口実に頭をめぐらしてみたが、後ろには誰もおらず、月明かりににじんだ白黒の森が広がるばかりだ、ということを確かめられただけだった。

さあ、ロジャーのお父さんに関わる謎が明らかになるでしょうか?
続きをお楽しみに!

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