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2010年10月28日 (木)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま19

場面はロンドン。ロード・ジョンへ焦点が移ります

1776年12月24日 ロンドンにて

ロード・ジョンは、考えた。
金持ちの奥さんというものは、がっちりした生き物なんだと。
若い頃充分に食べなかった埋め合わせの食欲のためなのか、地位が下がるのを警戒してなのか、彼女たちのほとんどは、贅肉がたっぷりとついていた。

でも、ネシーはちがう。
彼は、ネシーのスリップの薄いモスリン越しに、彼女の身体の線を透かして見ることができた。
うっかりベッドに寝ていたところを起こしてしまったので、彼女が上着をはおるために暖炉の前に立っていたからだ。
彼が最初に出会った頃と比べても、ただの1オンスの余計な贅肉もそのやせた骨組みについてはいなかった。あのとき彼女は14歳だと言っていたのだが、彼は11歳にちがいないと思っていたのだ。

今ネシーは30歳を過ぎたころだと思うが、いまだに14歳に見えた。
彼はそのことに微笑み、彼女もガウンの紐を結びながら微笑み返した。
微笑むと、彼女は少し年をとって見えた。
それは、歯が何本か抜け、根元が黒っぽくなっていたからだ。

がっちりとしてないとすれば、それはネシーにそうなる能力がないからだ。
彼女は砂糖を愛し、あっという間に砂糖漬けスミレやターキッシュ・デライトなどを一箱食べてしまう。それは多分、若い頃スコットランド高地地方で飢えていた時代の埋め合わせなのだ。
ジョンは、彼女に砂糖漬けのプラムを1ポンド持ってきた。

「私はそれだけの安物ってわけね?」と彼女はかわいらしく包んだ箱を取り上げながら、眉を上げた。
「いいえ、まったく。」とジョンは安心させた。「これは単に、お休み中のところをお邪魔をしたおわびですよ。」
この言い訳は、即席のものだった。
実際ジョンは、ネシーが働いているとおもっていたのだ。
もう夜の10時過ぎだからだ。

「いいのよ。今日はクリスマス・イヴですもの。」と彼女は、ジョンの口にしなかった質問に答えて言った。
「家庭がある男はみんな、家庭にいるんだわ。」と彼女はあくびをし、ナイト・キャップをとって、黒っぽい豊かな髪に指を通して、ふわふわにした。

「しかし、ここにも少しは客がいる。」とジョンは鋭く言った。
遠く2階下から歌声が聞こえてきたし、通り過ぎてきたとき、広間は人でいっぱいだった。
「おぉ、そうなのよ。やけっぱちの人たちね。彼らはメイベルにまかせてきたわ。見たくないから。かわいそうに。クリスマス・イヴに来るような男は、女性が欲しいわけじゃないのよ。そばに座る火、いっしょに座る人間が恋しいのよ。」
ネシーは、手を振って座り、がつがつとプレゼントからリボンをむしり取った。

「なら、君にハッピー・クリスマスと言おう。」とジョンは言い、感嘆をこめてネシーを見た。
彼女はプラムを1つとって口に投げ込み、目を閉じて、恍惚にため息をついた。
「むーん。」と彼女は言って、飲み込む前に次のを放り込んで噛み始めた。
このコメントが心からの響きを持っていたので、ジョンはネシーが感傷から現実に返ってきたことがわかった。

ジョンはもちろん、今日がクリスマス・イヴだとは知っていた。
しかし今日の長く寒い一日の間中、そのことを脇へ置いておいた。
今日は1日中雨降りで、凍えるような冷たい針のような雨に混じりときどき雹も吹きなぐり、明け方直前にミニー(兄の妻)の召し使いにアーガス・ハウス(兄の家)に来るよう起こされて以来ずっと、ジョンは冷えきっていたのだ。

ネシーの部屋は小さかったがエレガントで、居心地のよい眠りの香りがした。
ベッドは広く、とても装飾的なピンクと黒の『シャーロッテ女王』のチェックで縁取られた羊毛のカーテンが下がっていた。
疲れていたし、寒かったし、空腹だったので、ジョンはその暖かく、誘うような空間の引力を感じた。そこはおまけにガチョウの羽の枕と、キルトと、清潔で柔らかいシーツに覆われているのだ。
もし、一晩いっしょにベッドに寝たいと頼んだら、ネシーは何と思うだろうか?

『そばに座る火、いっしょに座る人間』。
そう、ジョンにはそれがあった。
少なくとも、今は。

ロード・ジョン・グレイは、少年の頃からジェイミーに恋する地位あるハンサムなイギリス紳士で、ジェイミーの息子ウィリアムを、訳あって自分の息子として育てているのです。
ネシーは彼の友人の娼婦で、諜報活動をしていたジョンの、よき情報提供者です。

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ジョン・グレイは、低くぶんぶん唸るような音に気付いた。
何か、窓枠の中に入り込んでしまったアオバエのような音だ。
その音の方を見て、彼はベッドの上の丸まったベッドカバーの塊と思っていたものの中に、人間の身体があることに気付いた。
枕の上を、手の込んだ玉飾りのしてあるナイト・キャップのひもが横切っていた。

「ああ、あれはラブよ。」とスコットランドなまりのおもしろがっている声がして、ふりむいたジョンは、ネシーが微笑んでいるのを見た。
「3人でやるのもいいんじゃない?」
ジョンは赤くなったが、そこで気付いた。
彼がネシーを好きなのは、彼女自身の魅力だけではなく、また彼女の賢明なスパイとしての能力だけでもなく、彼自身をまごつかせるのに比類稀な能力を持っているからこそなのだ。
彼自身の願望の実態(つまり男色)を彼女が正確に知っているとは思わなかったが、ネシーは子どもの頃から娼婦だったし、ほとんどの人間の願望については、意識しているかどうかは別として、洞察深く理解しているのだ。

「いや、そんなことはありません。」とジョンは行儀よく言った。「ご主人のお邪魔をしようなんて思いませんよ。」
ジョンは、ラブ・マクナブのがっしりした手と硬い太腿のことを、考えまいとした。
ラブは、ネシーと結婚して所有している売春宿が成功する前は、会社の頭取だった。彼に男色の気があるはずなど・・・?

「大砲の弾でも、起こすことなんかできませんよ。」とネシーは、ベッドの方を好ましげに見ながら言った。しかし彼女は立ち上がって、ベッドのカーテンを引いたので、いびきのひびきはその中に籠った。

「大砲と言えば、」と彼女は付け加え、椅子に戻ってから、屈んでジョンをじっと見た。
「あなた、まるで戦争に行っていたみたいに見えるわ。さあ、ひと口飲みなさいよ。ベルを鳴らして、暖かい夕食を少し持ってこさせるわ。」
そう言って、サイドテーブルに載っているデキャンターとグラスの方にうなずき、ベルのロープに手を伸ばした。
「いいえ、けっこうです。あまり時間がないのです。でも、温まるためにちょっと飲ませていただきます。」

ウィスキーは(ネシーはウィスキーしか飲まなかった。ジンは貧乏人の飲み物で、ワインはいいけれど目的には弱すぎるとみなしていたので)ジョンを温めた。またジョンのコートは暖炉の火に暖められて、蒸気を立ち上らせ始めた。

「時間がないのですって?」とネシーは言った。「それは、どうしてかしら?」
「フランスに行かなければならないのです。」とジョンは言った。「朝すぐに。」
彼女の眉が跳ね上がった。そして、砂糖菓子をもう一つ口に入れた。
「まぁ、クイスマスはごかろくといっほりゃないの?」

「口にものを入れてしゃべってはいけませんよ。」と彼は、微笑みながら言った。
「兄が、昨夜発作に見舞われたのです。心臓発作と言っていたけど、よくはわからないんじゃないかな。いずれにせよ、クリスマスのディナーにはありつける見込みは、あまりありませんね。」
「まぁ、それはお気の毒に。」とネシーは、さっきよりは明確に言った。
彼女は、口の隅についた砂糖を拭き、心配そうに眉を寄せた。
「あの方は、よいお方ですのに。」
「そう、彼は・・・」そこでジョンは止まり、彼女をじっと見た。「あなたは兄を知っているのですか?」
ネシーは、つつましくえくぼを寄せて微笑んだ。
「口の堅さは、取引において、女主人の一番大切な切り札です。」と彼女は暗唱した。
それは明らかに、前の雇い主の言い草を真似したものだった。
「私のスパイをしてくれている女は、そう言った。」
とジョンは言い、ハルのことを想像しようと・・・いや想像しないように・・・明らかに彼は売春宿に来るはずがないから・・・あるいはミニー(ハルの妻)に面倒をかけないため?いや、でも・・・

「あい、そう、スパイは無駄なおしゃべりとは違うわよね?私はお茶が飲みたいわ。あなたが飲まなくてもね。会話って、喉がかわくのよね。」
ネシーは召し使いを呼ぶためにベルを鳴らし、眉を片方上げて振り返った。
「お兄さんが危篤だから、フランスへ行くの?それなら緊急事態よね。」
「兄は、危篤ではない。」ジョンは鋭く言った。そのことを考えると、足元の絨毯が裂けて、彼を引きずりこもうと地割れが待ち受けている気がした。
ジョンはきっぱりとその考えから気を逸らせた。
「彼は・・・発作を起こしたのだ。アメリカで、彼の一番下の息子が怪我をして捕虜になったという知らせが届いた。」

ネシーの目は、それを聞いて大きく見開いた。
彼女は羽織っていたガウンを掴んで、ほとんど平らな胸元に引き寄せた。
「一番下。それじゃ、ヘンリーね?」
「そうだ。しかし、いったいどうして、あなたはヘンリーを知っているのだ?」とジョンは強く尋ねた。
不安で、声がしわがれた。

ネシーは微笑んで隙間のある歯を見せたが、ジョンの落ち込み具合を見取って、すぐに引っ込めた。
「お兄さんの召し使いの一人が、ここの常連客なのよ。」と彼女は簡潔に説明した。
「木曜日が休みなの。」
「なんだ。」ジョンは座り、両手を膝に置いて、考え・・・それと感情・・・をなんとかコントロールしようとした。「そうか・・・、わかった。」
「年も終りになると、アメリカからメッセージが届かなくなるわよね、ちがう?」とネシーは窓の外を眺めながら言った。
窓には赤いベルベットとレースのカーテンがかかっていたが、ザーザー降る雨の音はそれを通して聞こえてきた。
「最後の船は到着したの?」
「着いた。風で進路を逸れ、メインマストが折れて、フランスのブレストに着いた。そのメッセージは、陸路で届いたのだ。」
「それで、あなたが行こうとしているのは、ブレストなの?」
「いや、違う。」

彼女がもっと尋ねようとする前に、やわらかくひっかく音がドアの方でした。
ネシーは、召し使いを中に入れた。
その召し使いは、命じられていないのに(ジョンは、そのことに気付いた)、分厚く糖衣のかかったケーキなどのお茶の支度が載せられたトレイを持ってきていた。

ジョンは、気持ちからそれらを押しやった。
ネシーに話しても大丈夫だろうか?
彼女が口の堅さについて話していたのは、ジョークではない。
彼女独自のやり方ではあるが、ネシーはジョン自身と同じくらいしっかり、そして上手に秘密を守ってくれる。

「僕が行くのは、ウィリアムに関わることでなんだ。」と彼は言った。
ネシーはドアを閉め、彼の方に戻ってきた。

次は、ハルに会いに行ったジョンの章です。
お楽しみに!

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