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2010年10月31日 (日)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま20

ロード・ジョン・グレイは、心臓発作を起こした兄ハルを見舞いに、クリスマスの朝ロンドンからフランスにやってきます。

彼は、間もなく夜明けだとわかっていた。
それを教えてくれるたのは、節々が痛むということと、懐中時計の小さなチャイムだった。
空には何の兆しもなかった。
煙突ふきのような色をした雲がロンドンの屋根を掃いているようで、道路は真夜中よりももっと暗くなっていた。というのは、すべての灯りが消えてから時が経ち、炉辺の火もほとんど燃え尽きていたからだ。

彼は夜どおし起きていた。
しなければならないことが、いろいろあった。
ドーバーの乗合馬車に乗る前に、家に帰って数時間睡眠を取りたかった。
しかし自分自身が安心するためには、もう一度ハルに会わずに行ってしまうわけにいかなかった。

アーガス・ハウスの窓には、灯りが見えた。
カーテンが引かれていたが、かすかな明かりが外の玉石を照らしていた。
雪がたっぷりと降っていたが、まだ地面には積もっていなかった。
乗合馬車が足止めをくらう可能性は大きかったし、ぬかるんだ道路にめりこんだりして遅れることは確実だった。

乗合馬車といえば・・・彼の心臓は、車寄せに停まっているみすぼらしい馬車を見て、ドキリと跳ねた。あれは医者の馬車に違いない。
ドアを叩くとすぐに、服を着ている途中の召し使いが出てきた。
彼は寝巻をズボンの中に急いでたくし入れていた。
ジョンを見て、その男の心配そうな顔が、少しリラックスをした。

「公爵は・・・」
「夜中はよろしくありませんでしたが、今は良くおなりになりました。」
とその男、そうそうアーサーという名だった、は遮った。
それから、彼を入れるために下がって、ジョンの肩からコートを取って、雪を振るいおとした。

彼はうなずいて、案内を待たずに階段の方へ向かった。
そして医者が降りてくるのに出会った。
医者は痩せた灰色の男で、いやな匂いのする黒いコートを着て、カバンを手に持っていた。
「兄は、どんな具合ですか?」とジョンは尋ねた。
そして、医者が踊り場に来ると、袖を掴んだ。
医者は後ろに下がり、身構えたが、壁の蜀台に照らされたジョンの顔を見て、ハルと似ていることに気付き、逆立った羽毛をなでつけた。

「いくらかは、よくなりました。私が放血をしました。3オンスです。その結果、息がおだやかになりました。」
ジョンは袖を離し、階段を上った。
ジョン自身の胸が苦しくなった。
ハルの続き部屋へのドアは開いていたので、ジョンはすぐに中へ入り、おまるを持って出てきた召し使いを驚かした。おまるは蓋がしてあり、大きく華やかな花が美しく刺繍してある布で慎重にくるまれていた。
ジョンは、謝罪の意を込めて頷きながら彼女の脇を通り、ハルの寝室に入った。

ジョンとハルについて詳しくは、『死者から届いた日記』をお読みください。
また、An Echo in the Bone 骨の中のこだま2 でも触れています。
ハル、お久しぶり!のクリックを!

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ハルは、背中に枕をはさみこんで、それにもたれて座っていた。
顔色は悪く、まるで死んでいるかのようだった。
ミニーが脇に立っていたが、いつものぽっちゃりとして楽しげな顔は、心配と睡眠不足でげっそりとしていた。

「閣下は、糞するにも形式貼るのですね?」とジョンは、ベッドの脇、ミニーの反対側に座りながら言った。

ハルが灰色のまぶたを片方開けて、ジョンを見た。
顔つきは骸骨そのものだったが、薄い色の鋭い眼は生きているハルそのもので、ジョンは安堵で胸がいっぱいになった。

「ああ、あの布カバーについてかい?」とハルが言った。
その声は、弱々しかったが、はっきりとしていた。
「あれは、ドッティーのアイデアだ。あいつは、部屋を出て行かんのだ。私が、死ぬとしてもおまえが部屋に戻ってきてからにするから、と保証してやっても。」
ハルは息つぎのために話を止め、かすかにぜいぜい言い、咳をして、それから続けた。
「あいつは、神に感謝するが、信仰におぼれたりするタイプじゃない。音楽の才能もない。活力に溢れすぎていて、台所仕事にも向いていない。その驚くべきエネルギーのはけ口として、そこでミニーが針仕事をさせた。あれは、母親の後を継ぐだろう。」
「こめんなさいね、ジョン」とミニーが申し訳なさそうに言った。
「ドッティーを寝に行かせましたが、ろうそくがまだ点いているのを見ました。たぶん今も室内履きをあなたのために作っているのだと思いますわ。」

室内履きならば、どんなデザインをドッティーが選んでも、まぁ無害だろうとジョンは思い、そう言った。
「私のためにズボンに刺繍をしているのでなければ、かまいません。リボン刺繍とか・・・(ここの訳は不安)
このコメントはハルを笑わせた。その後激しく咳き込んでしまったが、少し顔色がよくなった。
「じゃ、死ぬわけではないんだね?」とジョンは聞いた。
「いや。」とハルは手短に答えた。
「よろしい。」とジョンは兄に微笑んだ。「死ぬなよ。」
ハルは瞬きをし、まったく同じことをジョンに言った瞬間を思い出し、微笑み返した。
「努力するよ。」とハルは冷静に言い、振り向いて、ミニーの手の上に愛情をこめて手を重ねた。「ねぇ、君・・・」

「お茶を持ってくるわ。」とミニーはすぐに言って、立ち上がった。
さぐるようなまなざしをジョンに向けてから、「暖かい朝ごはんもね。」と付け加え、出ていくときに慎重にドアを閉めた。

「で、何だい?」とハルは尋ね、枕の上で姿勢を高くした。片腕に巻かれた血染めの布を無視し、尋ねた。「何かニュースでも?」
「とても少しだけ。でも、驚くべき質問がたくさん。」

ヘンリーが捕虜になったというニュースは、ジョン自身宛ての手紙に同封されていた。その手紙というのは諜報機関からのもので、ジョンがパーシヴァル・ビューチャンプ氏に関するフランスのつながりについて照会したことに対する回答だった。
ジョンはネシーに会うまでは、そのことについてハルと話し合うつもりはなかったし、ハルはそんな議論ができる状態ではなかった。
「いや、ビューチャンプとヴァージェネス(フランスの外務大臣の名前)の間には、明らかなつながりはなかった。しかし彼は、よくビューマチェイスといっしょにいるらしい。」

このニュースで、また咳が始まった。
「ちくしょう、驚きだね。」
回復すると、ハルはしわがれ声で意見を述べた。
「どちらも狩猟に興味がある、ということだね?」
これはパーシー(パーシヴァル・ビューチャンプ、ハルやジョンの異母弟)が血なまぐさいスポーツを嫌っていることと、ビューマチェイスが先代の国王から『狩猟担当中将』という称号を受けていることに引っかけた、皮肉なコメントだった。(ごめんなさい。これも怪しい。)

「それと」とジョンはそのコメントを無視して続けた。「サイラス・ディアネもだ。」
ハルは顔をしかめた。「それは、誰だ?」
「アメリカ人の商人だ。パリでは、アメリカの国会代表だ。
彼はビューマチェイスのまわりをこそこそし、ヴァーゲネスと話しているもの見られている。」
「ああ、あいつか。」とハルは手をたたいた。「聞いたことがある。おぼろげに。」
「君は、ロドリグ・ホルタレツ・エト・シーという取引を聞いたことがあるか?」
「いや。スペイン語見たいに聞こえるが?」
「あるいはポルトガル語。私の情報源は、名前と、ビューマチェイスが何かそれに関わっている、ということしかわかっていない。」

ハルは、ぶつぶつ言って、後ろにもたれた。
「ビューマチェイスは、どんなパイにも指を突っ込む。
見張りをつけろ。(この訳でいいのか?)。ビューチャンプは、この仲間に何か関係ないのか?」
「知られているものは、ない。今のところ、すべてぼんやりとした情報で、それ以上のものはない。私は、ビューチャンプやアメリカ人たちについて、何か関係ありそうなものはすべて、一般的には知られていないものも含めてすべて)情報として求めた。そして、その結果がこれだ。」

ハルの細長い指は、布団カバーの上で落ち着きなく音階を奏でた。
「君の情報源は、そのスペインの会社が何をしているのか、知っているのか?」
「取引だ。他に何を?」とジョンは皮肉っぽく答え、ハルは鼻を鳴らした。
「もし銀行家なら、君も何か情報があるはずだ。」
「そうかもしれない。しかしそれを知る方法は、尖った棒でつつきまわしてみるしかない。私は馬車でドーバーへ・・・」ジョンは炉棚の上の暗がりにぼんやりしている旅行用携帯時計をちらりと見て続けた・・・「3時間以内に行く。」
「おお。」
その返事は当たり障りがなかったが、ジョンは兄をよく理解していた。
「遅くとも、3月末までにはフランスから帰ってくる。」とジョンは優しく付け加えた。「新年にアメリカ植民地へ行く最初の船に乗り、ヘンリーを連れて帰ってくるよ。」生きていても、死んでいても。
2人のどちらも、その言葉は口に出さなかった。そうする必要はなかったからだ。
「そのときは、ここにいるよ。」と最後にハルは静かに言った。

ジョンは兄の手に自分の手を重ね、ハルの手はすぐにジョンの手を包んだ。
ハルの手は脆く見えたが、その手の握る力強さにジョンの心は暖かくなった。

彼らは、手を握り合って静かに座っていた。
ドアが開き、アーサーが(今や完璧に装って)カードテーブルの大きさのトレイにベーコン、ソーセージ、キドニー、燻製ニシン、小皿に入れて天火で焼いた卵、グリルしたマッシュルームとトマト、トースト、ジャム、マーマレード、香り高く湯気を立てている紅茶、砂糖とミルクの入ったボウルなどを載せて入ってきた。
彼は、もったいぶってカバーされた皿をハルの前に置き、蓋をとるとそれは薄いオートミール粥だった。

アーサーはお辞儀をして出て行った。
ジョンは、ネシーの家に毎週木曜日に行く召し使いとは、このアーサーかどうか考えた。
それから振り返ると、ハルがジョンのキドニーを盛大に食べていた。
「君には、こっちの汁があるじゃないか?」とジョンは尋ねた。
「おまえまで、急いで私を墓場に入れようとしているなんて言うなよ。」とハルは言い、咀嚼する喜びに目を閉じた。「ラスクや粥なんて食べさせながら、回復できると思うなんて、どうかしている・・・」
怒りながら、ハルはキドニーをもう一つ、フォークで突き刺した。

「本当に心臓発作だったと思う?」とジョンは尋ねた。
ハルは頭を横に振った。
「まったくそう思わない。」と彼は口調を変えずに言った。「聞いてみたんだよ、最初の発作の後に。いつもと同じようにドキドキしていた。」
そこでハルはフォークを空中に止め、実験的に自分の胸を探った。「ここが痛まなかった。痛むはずだろう?」
ジョンは肩をすくめた。
「それじゃ、何の発作かい?」
ハルはキドニーの最後の一切れを飲み込み、バターを塗ったトーストに手を伸ばし、もう一方の手で、マーマレードのナイフをとった。
「息ができなかった。」と彼は気軽に言った。「顔色が青くなる。そういったものだ。」
「なるほど。」
「今はとても調子がいい。」とハルは、少し驚いたように言った。
「そうかい?」とジョンは言って、微笑んだ。
今は少し先延ばしにできるが、外国に行こうとしているのだ。そして予測できない事態が起こりうるだけでなく、すでにたくさん起きている。ものごとを放っておかないに限る。再会する時までにどちらか一方に何か起こるといけないから。

「わかった。じゃあ、少しだけの刺激なら、君の配線が焼け切れたりしないというのであれば、ちょっと言わせてもらいたい。」

ジョンが話したドッティーとウィリアムの間の『優しさ』に関するニュースは、ハルをまごつかせ、少しの間食べるのを止めさせた。
しかししばらく考えた後、ハルは頷いて、再び咀嚼を開始した。
「わかったよ。」と彼は言った。
「わかった?」とジョンは繰り返した。「反対しないのか?」
「もし反対したら、おまえといっしょに座っていられないだろう?」
「あなたが私の感情を配慮して変わるのなら、病気になるはずがないでしょう?」
ハルは少しにやりとして、紅茶を飲んだ。
「いや。」と彼は言って、空になったカップを戻した。
「そういうわけじゃない。ただ・・・」とハルは後ろにもたれ、手を組んで、(ほんの少し突き出た)腹の上に置いた。「死ぬかもしれない。死のうとしているわけじゃない。そうしようと思っているとは考えるな。でも私は死ぬかもしれない。そのとき、ドッティーを守ってくれ、ちゃんと彼女を世話してくれる人物といっしょになっていると知っていれば、安らかには死ねる。」
「ウィリアムをそう高く評価していただけて、うれしいよ。」とジョンは冷静に言ったが、彼は実際にはものすごくうれしかったのだ。

「もちろん、ウィリアムはできる。」とハルは当たり前のように言った。
「あいつは、君の息子だ。そうじゃないかい?」
教会の鐘が鳴り始めた。
どこか、少し離れた場所で。ジョンは思い出した。
「そうだった!」と彼は言った。
「ハッピー・クリスマス!」
ハルは、ジョンと同じくらい驚いたようだったが、それから微笑んだ。
「こちらからも、同じことを君に。」

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