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2010年10月10日 (日)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま15

「僕は、そのことはあまり詳しく知らないのです。」とロジャーは言った。
なぜだか妙に、受け身になっていた。
「母は、父と飛行機の写真を持っていました。
飛行機は『ぬいぐるみ人形(RagDoll)』と呼ばれていて、機首にそう書いてあった。
 赤いドレスを着た黒いカールの人形の絵も。」

その写真について、ロジャーはとてもよく覚えていた。
母親が(爆撃で)殺されてしまった後ずいぶん長いこと、枕の下にその写真を入れて寝ていたのだ。
母親の方の写真はスタジオで撮影したもので、枕の下に入れるには大きすぎたし、それが無くなっていることに誰かが気付くと嫌だったのだ。

『ぬいぐるみ人形・・・』とロジャーは繰り返し、突然何かに気付いた。
「何?どうしたの?」
「いや、大したことじゃないんです。ただ、気付いたんです。
 『ぬいぐるみ人形』って、たぶん、父が母をそう呼んでいたんじゃないかって。
 ニックネームというわけですよね?
 父が母に宛てた手紙をいくつか読んだことがある。
 たいていは『お人形さん(Dolly)』という宛名になっていた。
 それに、今黒いカールのことを考えてみると・・・母の肖像写真・・・マンディだ。
 マンディは、母の髪を受け継いでいる!」

「あら、それは良かったわね。」とクレアは冷静に言った。
「私にあのカールについての全責任があるというのは、嫌だったのよ。
 大きくなったら、ちゃんとそのこと、マンディに伝えてね。
 女の子は誰もが、きついカールを憎むものなのよ。
 少なくとも小さい時、他の子と同じようになりたいうちはね。」

他のことに気をとられてはいたが、ロジャーは寂しさをその声に感じ、クレアの手を取った。もっとも彼女は、まだ手に植物を握りしめていた。

「ちゃんと、話します。」とロジャーは柔らかに言った。
「何もかも、話します。子どもたちがあなた方を忘れるなんて、絶対に考えないで。」
クレアはロジャーの手を握り返し、白い花の香りがスカートの上に広がる闇にこぼれた。
「ありがとう。」とクレアはささやいた。
ロジャーは、彼女が少し泣いているような音を聞いた。
それから彼女は眼のあたりをすばやく、もう一方の手の甲で拭いた。
「大切なことなのよ。覚えているっていうのは。
 そう思っていなければ、これを言おうとはしなかったわ。」
「何を・・・言うのですか?」

小さくて硬く、薬品の匂いがするクレアの手が、ロジャーの手を包み込んだ。
「あなたのお父さんに、何が起きたのか、正確には知らないわ。」と彼女は言った。
「でも、みんながあなたに話したことは、間違っているのよ。」

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「ロジャー、私はそこにいたのよ。」とクレアは辛抱強く繰り返した。
「私は新聞を読んだわ。
 だって、空軍の看護をしていたのよ。
 彼らと話をしたわ。
 飛行機も見たわ。
 スピットファイヤーという機種は、小さくて軽いのよ。
 防御のために作られたの。
 絶対に、海峡を渡ったりしないわ。
 イギリスから大陸に行って帰る能力はないのよ。
 もっとも、戦争後期ではそれもやらされたけれどね。」

「でも・・・」
ロジャーが考えていた議論・・・進路をはずれた・・・計算を誤った・・・は、消え失せた。
気付かないうちに、腕の毛が逆立っていた。

「もちろん、そういったことも起こるわ。」とクレアが、まるで彼の考えを読んだかのように言った。
「時間と距離が離れれば、出来事がゆがんで伝わる、ということもあるのよ。
 あなたのお母さんに話した人が、間違えたのかもしれない。
 お母さん自身が、叔父さんに誤解されるように話してしまったのかもしれない。
 何だって、あり得るのよ。
 でも、戦争の間中、私はフランクから手紙をもらっていたわ。
 彼は、軍事情報部に移籍するまでは、できだけ頻繁に書いてくれたのよ。
 それからは、何ヶ月も一通の手紙も来ないことがあったわ。
 でも移籍の直前に出した手紙に、ある変わった事件が報告書にあったって書いていたのよ。まあ、単なるちょっとしたおしゃべりとしてだけど。
 それは、スピットファイヤーが一機、ノースアンブリアで墜落して壊れたということ・・・撃墜されたんじゃないの・・・エンジントラブルに違いないと思われていたのよ。
 そして、奇妙なことに、炎上しなかったのに、パイロットはいなくなっちゃったのよ。
 跡形もなくね。
 フランクは、そのパイロットの名前のことも書いてくれたわ。
 ジェレミアって、そういった運命にはちょっとぴったりの名前だと思ったって。」

「ジェリー。」とロジャーは言った。
彼の唇は、麻痺したように感覚がなかった。
「母は、父をいつもジェリーと呼んでいた。」
「そうなの。」とクレアは柔らかく言った。
「そして、ノースアンブリア地方には、あちこちにストーンサークルがあるのよ。」
「その飛行機が消えた近くに・・・」
「わからないけれどね。」
ロジャーは、クレアが困って肩をすくめる微かな動きを見た。

彼は眼を閉じ、深く息を吸い込んだ。
空気には、折れた茎から立ち昇る香りが充満して、濃密だった。
「あなたは、帰ってしまうから、今話してくれているんですよね。」
ロジャーは、とても静かにそう言った。
「私は、ここ何週間も、自分の中で議論していたのよ。」
クレアはちょっと言い訳するように言った。
「思い出したのは、たった1ヶ月くらい前のことなの。
 私はあまり・・・自分の・・・過去のことは考えないのよ。
 でも、いろいろなことが・・・」
クレアは片手を振って、差し迫った出発と、それにまつわる真剣な議論を封じ込めた。
「私はただ、『独立戦争』について考えていたの。
 そのまっただ中にいる人はみんな、大文字のWで始まる『War』で独立戦争を考えるだろうなって。ここ、少し意味が違うかも)
 そしてジェイミーにそう話したの。」

クレアにフランクのことを聞いたのは、ジェイミーだった。
彼は、フランクが第二次世界大戦で何をしていたのか知ろうとしたのだ。

「ジェイミーは、フランクに関心があったの。」
クレアは突然言った。
「僕だって、同じだったと思う。
 そういった状況下であれば。」ロジャーは、冷静に答えた。
「フランクは、ジェイミーに関心が無かったんですか?」

その質問は、クレアを混乱させたようだったし、彼女はそれに直接は答えなかった。
しかし、何とか会話をもとの路線に戻そうとしていた。
もしもこういった会話に、路線というものがあればだけど、とロジャーは思った。

「とにかく、」とクレアは言った。
「それがきっかけで、私はフランクの手紙を思い出したの。
 そして、彼が書いてくれたことを思い出そうとしていたとき、突然その一文がよみがえってきたのよ。
 そう、ジェレミアがある運命を意味する名前だというやつをね。」
ロジャーは、クレアがため息をつくのを聞いた。

「確かではなかったの・・・でも、ジェイミーには話したわ。
 彼は、あなたに話すべきだと言った。
 あなたには、知る権利があると言ったわ。
 その知識で、正しいことができるだろうって。」
「そう言っていただいて、うれしいです。」
とロジャーは言ったが、むしろ打ちのめされたようだった。

ね?
ますます物事が複雑になっていきましたね!
ロジャーがストーンサークルをくぐるとき、お父さんを身近に感じたのは、はやりその空間でつながっているからなのね。
ロジャーは、お父さんにいつか会えるのでしょうか?
お父さんは今、どこにいるのでしょうか?
わくわくです。

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