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2011年2月19日 (土)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま24 深海から

25章 深海の深みから

1777年5月15日

親愛なる君たちへ

 私は船が嫌いだ。
骨の隅々から、船を憎んでいる。
それなのに、私はまた、海のとんでもない深みの上を漂っているのだ。
乗っているのは、『トランキル・テール(透き通ったしっぽ)』という船で、そのばかげた名前からも、船長の深刻な気まぐれぶりが覗えるというものである。
この紳士は、混血の密輸人で、邪悪な表情、程度の低いユーモアの持ち主であり、私に真面目な顔で、自分の名前が『トラストワーシィ・ロバーツ(信用するに足るロバーツ)』だと名乗ったのだ。


 ジェイミーは、羽ペンをインクに浸すために書く手を休め、遠ざかっていくノースカロライナの岸壁に目をやった。
しかしそれが不規則に持ち上がったり、下がったりしているのを見て、急いで視線を紙面に戻した。その紙面は、頭上の帆を膨らませている風に飛ばされないように、簡易テーブルにびょうで止めたものである。
 『私たちは、みんな健康である。』と彼はゆっくり書いた。
船酔いのことは、脇に置いておいた。それについて書こうとは、思っていない。
ファーガスのことは、伝えるべきだろうか?
ジェイミーは、悩んだ。

 「気分はどう?」
ジェイミーは、クレアを見上げた。
クレアはかがんで、あの注意深い好奇心を秘めたまなざしでジェイミーを見つめていた。
そのまなざしは、彼女がいつも、吐きそうだったり、血をまき散らしていたり、死にそうだったりする人々のためのとっておきのものだった。
ジェイミーはすでに、最初の2つはやらかしていた。
というのは、クレアがうっかり彼に針の治療を施す時に、頭皮の小さい血管にそのうちの1本を刺してしまったからだ。
でもジェイミーは、クレアが彼の死の兆候に気づかないといいな、と思った。

 「そうだね、まあまあだ。」
ジェイミーは、自分の胃袋のことを、考えることさえ避けたかった。
気にすることで、胃袋が調子に乗ることを恐れたからだ。
それ以上議論しないように、話題を変えた。
「ブリアナとロジャー・マックに、ファーガスのことを伝えるべきだろうか?」
「インクはどのくらい残っているの?」とクレアははすに構えて微笑み、尋ねた。「もちろん、伝えるべきだわ。絶対興味があるはずよ。それに、あなたの気晴らしにもなるわ。」
クレアはそう付け加え、ジェイミーをちらりと横目で見た。
「あなた、まだ顔色が蒼いわ。」
「そうなんだ。どうもありがとう。」

彼女は、よい船乗りの持つ明るい屈託の無さを生かして笑い、ジェイミーの頭のてっぺんにキスをした。もちろん彼の額から突き出している4本の針は避けた。
それから船べりのそばに立ち、波にゆられる陸地が視界から遠ざかっていくのを眺めていた。

 ジェイミーは、この失望しそうな展望から目を逸らし、彼女の手紙に戻った。

 ファーガスとその家族もまた、とても元気だ。
だが、おかしなことがあったのは、書いておかねばならない。
パーシヴァル・ビューチャンプと名乗る男が・・・


 ビューチャンプと、彼がこちらに対して異常な興味を持っていることを書くのに、そのページのほとんどを使ってしまった。
ジェイミーはクレアを見上げ、ビューチャンプが彼女の家族とつながるかもしれないという可能性について、書くべきかどうか悩んだが、そうしないことに決めた。
(ブリアナ)なら、絶対母親の旧姓を知っているはずだし、すぐに気づくだろう。
苗字が同じという以上の情報はないのだし、手の痛みが激しくなってきた。

 クレアはまだ手すりの所にいた。片手を手すりに置いてバランスをとり、顔は何かを夢見ていた。
彼女はその豊かな髪の毛を後頭部でリボンを使って結んでいたが、風がそれを広げていた。
髪の毛とスカート、それにショールが後ろになびき、服の布地がいまだに完璧な胸の形を刻んでいるのを見ると、まるで船首の彫刻のようだった。
優美で荒々しく、深みに潜む危険から守ろうとする精神に満ちていた。

 ジェイミーは、そう考えると少し安心できることがわかり、自分に任された難しい内容にもかかわらず、前よりはよい気持ちで作文に戻ることができた。


さて、ジェイミーとクレアは、船の上で何をしているのでしょうか?
そう、イギリスへ渡り、スコットランドのエジンバラへ印刷機を取りにいこうとしているのですよ。
イギリスへは行けるのでしょうか?
それにしても、船の上で手紙を書くことができるなんて、ジェイミーに対する針の治療はずいぶん効くのですね。
よかったね、ジェイミー、どうせ間もなく又事件に巻き込まれるのだろうけれど!
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 ファーガスは、ムシュー・ビューチャンプと話さないことを決めた。
私もそれがよいと思う。
そして、これでこの問題は終わったと考えた。
 
 私たちがウィルミントンにいる間のことだが、ある日私はデランシー・ホール氏という、ロバーツ船長との連絡係りに会いに船着き場まで降りて行った。
 イギリス軍の軍艦が港に入ったからである。
そのため我々は、慎重を期してホール氏の漁船に乗船し、港の外で『ティール号』と落ち合うように修正する必要があったのだ。
というのは、ロバーツ船長はイギリス海軍の近くにいたがらないからだ。

(これは、私的な船の、あるいは商業的な船の船長たちにとっては、ごく当たり前の反応なのだ。
 それは、ほとんどの船で密輸が横行していたのと、海軍がこれらの船の乗組員に対しての略奪を欲しいままにしていたからだ。
 海軍の乗組員は、当たり前のように誘拐されてきていた。
 『徴兵された』と彼らは言っていた。
 事実上、
乗組員は生涯、奴隷と同じ扱いだった。違うのは逃亡したときに、奴隷は首つりになるが、彼らはならないということだけだった。)

 我々の人生を預けるのに、この船とホール氏はそれに値するのかどうか調べるために、私は荷物にしのばせて、いくつかの小さな道具を持ってきた。
 ところが船は停泊していなかったし、ミスター・ホールは現れなかったので、私は自分が指示を間違えたのか、彼の方がイギリス海軍か悪党か私拿捕船の仲間の所へ逃げたのだと思った。
 
 私は暗くなるまで待ってみた。
 もう宿に帰ろうとしている時、小さいボートが青いランタンを船尾につけて港に入ってくるのを見た。
 それはホール氏の信号で、ボートというのは彼の2本マストの帆船だった。私は彼が船着き場に舫うのを助けた。
 ホール氏は前日ニュー・ベルンにいて、その町はフレイザー氏への批難で大騒ぎになっていたと話してくれた。

 彼の報告によると、フレイザー氏つまりファーガスが、その日の配達を終えてラバの車から降りようとしている時に、誰かが後ろから頭に砂袋をぶち当てたということだった。
 同時に他の誰かが、ファーガスの手を掴んだ。たぶん縛ろうとしたのだろう。
 ファーガスは当然これらの攻撃に対して反撃し、ホール氏の話によれば、鉤爪で攻撃者の一人に怪我を負わせた。
 現場には血が飛び散っていたので、この話の裏付けになるだろう。
 怪我を負った男は、叫び声をあげて後ろに下がり、大声で罵った(私はその罵りの内容に興味があった。つまり、英語だったのか、フランス語だったのか、ということだ。だがその情報は得られなかった。)
 とにかく、クリアランス(誰だか覚えているよね
(頑固なラバです))が興奮し、ファーガスと取っ組み合って倒れこんできた2人目の攻撃者にかみついた。
 その2人目は、これですっかりやる気を無くしたが、最初の攻撃者が争いに加わり、ファーガス(袋をかぶせられて盲目になっていたけれど、助けを求めてわめいていた)は、そいつを再び鉤爪でひっかいた。
 何人かは(とホール氏は言った)ならず者がファーガスから鉤爪をねじり取ったと言い、他の者はファーガスがそいつを攻撃したけれど鉤爪がならず者の服にひっかかり、もみ合ううちに抜けたのだと言った。
 どちらにしても、トンプソン酒場にいた人々は、騒ぎに続いて、ならず者が逃げだす音を聞いた。
 ファーガスは、打ち身と鉤爪が無くなった憤りでいっぱいのまま取り残されていた。
 だが彼は、神と聖ディスマス(ファーガスの守護聖である)の御蔭で、怪我はしていなかったのだから、感謝すべきである。
 
 私はホール氏にできる限り詳しく聴いたが、あまりよく解らなかった。
彼の話では、大衆の意見は分かれていた。
その多くは、これをファーガスの国外追放を狙った騒動と考え、攻撃したのは『自由の息子たち』だと非難していた。
 一方『自由の息子たち』のメンバーはこれを憤然として否定し、ファーガスがパトリック・ヘンリーの扇情的なスピーチを印刷したのを止めさせようとして、『英国支持派』が起こしたのだと主張した。ファーガスを誘拐しようとした事件は、『タールと羽』への前奏曲だという意見なのだ。
 見たところファーガスは、これまでどちらの側にもつかないようにしてきて、うまくいっていたのだ。そのため両方の側がファーガスに対して腹を立て、彼の影響を取り除こうと決めた、というのだ。

(この1行がよくわからない)
 
もちろんそうかもしれない。しかしビューチャンプ氏が現れたこととやその行動から考えると、私自身は3つ目の説明が一番合っていると思われる。

 ファーガスはビューチャンプと話すことを断った。しかし彼の苗字
(フレイザーである)とスコットランド人の妻がいるという事実にもかかわらず、彼自身がフランス人である、ということを掴むのには、そんなに大変な努力をするまでもない。
ニューベルンのほとんどの住人はそのことを知っているし、誰でもそれをビューチャンプ氏に言える
。(だから、誘拐を企てたのは『自由の息子たち』でも『英国支持派』でもなく、ビューチャンプ氏だろう。)

 私は、なぜビューチャンプ氏がファーガスを誘拐したいのか、全くわからない。
どうしてファーガスに直接、自分が探している人物なのかどうか、尋ねないのだろう。
彼がファーガスを今すぐ傷つけようとしているわけではないだろう、と考えざるを得ない。
もし傷つけようと思うのならば、彼を殺そうと計画するのはとても簡単だからである。
なぜなら最近この植民地には、どこにも属さない、卑しい性質の男たちが、たくさんうろついているからである。

 起きたことは、心配である。
でも、今現在置かれているみじめな立場では、それに対してできることはほとんど、無い。
私はファーガスに、手紙を書いた。
見かけ上は、印刷業の発明特許に関する内容である。
その手紙では、もしも必要なことになれば引き出せるように、ウィルミントンの金細工師にまとまったお金を預けたということを知らせた。
私はファーガスとはすでに、今彼が置かれている状態の危険性について議論したのだ。
その時には、人々が実際にどれだけ危険になる得るか、よく知らないで話していた。
ファーガスは、移住すればいくらかは家族が安全になるだろう、ということ同意した。どこか公衆の意見と彼自身の意見とが、もっとぴったり合っている町ならば、だ。

 今回の事件で、ファーガスはその決意に従わざるを得なくなっただろう。
我々自身のことについては、考える余地もない。
(この1行もよくわからない。翻訳の出るのが、楽しみです。)
  

ジェイミーは、また書く手を止めた。
痛みが手のひらを貫通して手首にまで広がってきたからだ。
ジェイミーは指を伸ばし、うめき声をこらえた。
薬指から上腕まで、電気ショックによって、熱い針金が突き刺されたように感じたのだ。

彼はファーガスとその家族を、心配しているどころではなかった。
もしビューチャンプが一度やろうとしたのなら、おそらくもう一度やるだろう。
しかし、なぜなのだ?

おそらく、ファーガスがフランス人であるという事実だけでは、ビューチャンプが探しているクラウデル・フレイザーだという証拠としては不十分なのだろう。
ビューチャンプはこの点について、どんな手段を使っても明らかにしようと、密かに企んでいるのだろうか?
そうかもしれない。
しかし、それにはあまりにも冷酷な意図が感じられ、ジェイミーは手紙に書くことを控えたのだ。

それに公平に言うならば、あの誘拐事件の目的が、政治的に触発された誰かのしわざだという方が、ビューチャンプ氏の悪意のある計画と考えるよりも、かなり可能性が強いということも、認めざるを得ない。
どちらにしても、かなり空想的で、仮定的な説明だ。

『でも私はこれまでずっと、ネズミを見ればその臭いもわかった。』とジェイミーは、手をさすりながら言った。

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