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2011年6月18日 (土)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま29 湾の牡鹿4

学校から帰ってきてすぐ、家を飛び出したジェム。
学校で、何があったのか、明らかになります。


『ここにいるよ、ダ!』
ジェミーの声が、上の方から聞こえてきた。少し震えている。
ロジャーは振り向いて、ジェムが『樽のひとはね』の上に座っているのを見つけた。
網の袋を胸に抱えている。
『OK,じゃ、降りておいで。』
安心感が、困惑と闘ったが、徐々に打ち勝った。
ロジャーは手を伸ばし、ジェムは岩をすべりおりて、父親の腕の中にどさっと納まった。

ロジャーはぶつぶつ言って、ジェムを座らせ、地面に落ちていた網の袋を取り上げるためにかがんだ。パンとレモンスカッシュに加え、いくつかのリンゴと、チーズの大きな塊、それかたチョコレートビスケットが一箱入っていた。

『少しここにいようと思っていたんだね?』とロジャーは尋ねた。
ジェミーは赤くなって、脇を向いた。
ロジャーは振り返り、斜面を見上げた。
『あそこだよね?おじいちゃんの洞窟は?』
ロジャーには、何も見えなかった。
斜面には、ヒースと岩がごちゃまぜになり、そこに沢山の発育の悪いハリエニシダの茂みと、まばらなナナカマドやハンノキの幼樹が混ざっていた。

『あい、ちょうどそこだよ。』と、ジェミーは斜面の上の方を指差した。
『あの、魔女の木がもたれているところ、わかる?』

ロジャーは、ナナカマドの成長した木が、年齢のためにこぶになっているのを見た。
もちろん、ジェイミーの時代からそこに生えていたわけではないだろう。それとも?
だが洞窟の入り口の気配はなかった。
下の方で起きていた戦いの音がやんだ。
ロジャーは、負けた方の鹿がこっちへ戻ってこないかと見まわしたが、明らかに大丈夫そうだった。
『パパに見せてくれる?』とロジャーは言った。
ジェムは、とても居心地悪そうだったが、この言葉で少しくつろいだようで、振り返って、斜面を登りはじめた。ロジャーは、すぐ後を追った。

たぶん、その洞窟の入り口の隣に立っていても、まったく気づかなかっただろう。
その入り口は、岩石の露頭(がけ)とハリエニシダのこんもりとした植生で隠されていた。正面に立たない限り、その狭い隙間を見つけることはできない。

洞窟から、一陣のひんやりとしてしめった風が、ロジャーの顔に向かって吹き出した。
彼はのぞきこもうと、ひざまずいた。
数フィート(50㎝から1mくらい)以上は見えなかったが、あまり居心地はよさそうでなかった。

『ここで寝るのは、寒かっただろう。』と彼は言った。
そしてジェムを見て、そばの岩の方へ身振りをした。
『座って、学校で何が起きたのか、話してみないか?』

ジェムはつばを飲み込み、体重を左右に移動させた。
『嫌だ。』

『座りなさい。』
ロジャーは声を荒げなかったが、従うべきだということは明らかにした。
ジェムは、きちんと座りはしなかったが、後ろ向きにずれて、洞窟の入り口を隠している岩でできた露頭にもたれた。彼は目を上げなかった。

『むち打ちされた。』
ジェムは、あごを胸にうずめたまま、つぶやいた。

『そうかい?』
ロジャーは、平静な声で言った。『そりゃ、たいへんだったね。僕も生徒だったころ、一度か二度はやられたが、好きじゃなかったな。』

ジェムの頭が跳ね上がった。目が見開いていた。
『あい?なぜやられたの?』
『けんかさ、主にね。』とロジャーは言った。
ジェムに言うべきではなかったかもしれないが(悪い例だからだ)、それは事実だった。
それに、もしジェムの問題がけんかなら・・・

『今日やったのは、けんかかい?』
ロジャーは座りながらジェムにざっと目を走らせ、今度は近くから観察した。
ジェムは、怪我はしていないようだ。
しかし、向こうを向いたとき、ロジャーは耳がどうかしているのに気付いた。
耳は真紅に染まり、耳たぶはほとんど紫色に近かった。
ロジャーはそれを見てあまりに驚き、思わず『何が起こったの?』と繰り返した。

『ジャッキー・マッケンローが、むち打ちのことを聞いたら、家でもう一発パパからむちをもらうって、言ってた。』
ジェムはつばを飲み込んだが、今度は自分の父親をまっすぐ見つめていた。
『パパ、そうするの?』
『わからないな、そうしたくはないね。』

ロジャーはジェミーと一度せっかんしたことがある。そうしなければならなかったのだ。
そしてどちらも、もう二度とそれを経験したくはなかった。
ロジャーは手を伸ばし、ジェムの燃えるような耳にそっと触れた。

『息子よ、何が起きたのか、話してごらん。』
ジェムは深く息を吸って、ほおを膨らませ、それからあきらめて息を吐きだした。


がんばれ、ジェム、
小さなジェムと、今週も頑張って更新できた私に、応援のクリックを!
ここのところQueenにはまり、ずっとBGMで流しながらPCに向かっています。

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『あい、そう、シミー・グラスコックが、ママと僕とマンディはみんな地獄で火に焼かれるって言ったとこから始まったんだ。』
『そうかい?』ロジャーは、ほとんど驚かなかった。
スコットランドの長老派の信者たちは、もともと宗教的に寛容というわけではなかったし、この200年間にそんなに変わっていなかった。
ほとんどの者は、異教徒である知り合いに対して、正面切って地獄に行くだろうと言わないだけの礼儀があったが、明らかにそう考えてはいた。

『よろしい。でもおまえはそういう時、どうしたらよいか知っているはずだよね?』
ジェムは、リッジにいたときも同じような意見を聞いたことがあった。
もちろん、ずっと物柔らかにだが。ジェイミー・フレイザーがいたからだ。
それでも人々は、そういった話をした。だからジェムは、その特別な話題に対しどう切り返せばよいのか、十分に準備ができているはずだった。

『あい、もちろん。』とジェムは肩をすくめ、再び靴を見下ろした。
『ただ、『あい、いいさ、じゃ、地獄で会おうな。』って言ったのさ。』
『それで?』
深いため息。
『僕は、それをゲール語で言った。』

ロジャーは、困惑して耳の後ろをかいた。
ゲール語は、ハイランドでは失われつつある。
でもいまだに使われていて、パブや郵便局でしばしば耳にする。
ジェムのクラスメートの何人もが、お爺ちゃんなどから聞いたことがあるはずだ。
でも、もし何といったのかわからなかったのなら?

『それで?』とロジャーは繰り返した。
『そしたら、ミス・グレンデニング先生が僕の耳を掴み、引きちぎろうとしたんだ。』
思い出して、ジェミーの頬が赤くなった。
『僕をゆさぶったんだよ、パパ!』

『耳を持って?』
ロジャーは、自分自身の頬も、反応して赤くなるのを感じた。
『そうだよ!』
不面目と怒りの涙が、ジェムの目に湧き上がった。
しかし彼はそれを袖で振り払い、腿をこぶしで叩いた。
『先生は、『わ、た、し、た、ち、は、そ、ん、な、こ、と、ば、を、つ、か、い、ま、せ、ん!え、い、ご、を、は、な、す、の、で、す!』って言ったんだよ!』
ミス・グレンデニングを再現するにはジェムの声は甲高すぎたが、彼女の攻撃の残虐さを示すには十分な物まねだった。

『で、先生がおまえをむち打ったのかい?』
とロジャーは不審に思った。
ジェムは頭を振り、鼻をそでで拭った。
『ううん、』と彼は言った。『ミスター・メンチス先生だ。』
『何?じゃ、なぜだい?ほら。』
ロジャーはポケットからくしゃくしゃになった紙のハンカチを出し、ジェムが鼻をかむ間、待った。
『えっと、僕はジミーともめた。それに先生が僕をあんなふうに掴んだんで、とても痛かったんだ。そして、だから、僕も怒ったんだ。』
ジェムはそう言うと、ロジャーをその正義に燃える青い目で(それはあまりにも祖父と同じだったので、こんな状況にもかかわらず、あやうくロジャーは微笑むところだった)、じっと見た。
『それで、おまえは何か先生に言ったんだな?』
『あい。』ジェムは視線を落とした。土の上で運動靴のつま先をこすりながら。
『グレンニング先生は、ゲール語が好きじゃないけど、知ってもいないんだ。でも、メンチス先生は知っている。』
『おお、神よ。』

メンチス氏が叫び声を聞いて運動場へ出てきて、ちょうどジェムがミス・グレンニングに向かって、声の限りに祖父から学んだゲール語のののしりのベスト・コレクションを披露しているのを聞いたのだ。

『それからメンチス先生は僕を椅子の上にかがませ、すごいやつを3発くれた。それから学校が終わるまで、コート部屋にいるように言った。』
『でも、おまえはいなかったな。』
ジェムは、頭を横に振った。
明るい髪が広がった。
ロジャーはかがんで網の袋を拾いながら、怒りと失望、笑いとのどを締め付けるような同情と闘った。
2度考えて、ロジャーは同情を少し示すことにした。

『家から逃げ出してきたんだよね?』
『ううん。』ジェムは驚いて彼を見上げた。
『でも、僕は明日学校へ行きたくなかったんだ。ジミーにも笑われたくなかった。だから週末まで、もしかしたら月曜まで、ものごとが少し落ち着くまでの間、ここにいようと思ったんだ。グレンニング先生が死んでしまうかもしれないし。』と彼は希望を持って付け加えた。

『で、お母さんと僕は、おまえが降りてくるころには心配のあまり、2度目のむち打ちを忘れてしまうかもしれないし?』
ジェムの青い目は、驚きのあまり大きく見開いた。
『そんなことはないよ。もし何もいわずに出かけたら、ママは僕をひどい目に合わせるに決まってる。僕はベッドにメモを置いてきたよ。1日か2日、野外生活をするってね。』
彼はこれを、完璧に当然なこととして言った。
それから肩をもじもじさせて、ため息をつきながら立ち上がった。

『むち打ちを終わらせて、家に帰らない?』とジェムは尋ねた。少しだけ声が震えていた。
『おなかが空いたよ。』

『むち打ちは、しないよ。』とロジャーは安心させた。
彼は腕を伸ばしてジェミーを引き寄せた。
『おいで。』

それを聞いて、ジェミーに勇敢な虚勢は崩れ、ロジャーの腕の中に溶け込み、安心して少し泣き、父犬の肩に乗った子犬のようにぴったりくっつき、パパこそ何もかも大丈夫にしてくれると信じ、なぐさめられた。
もちろん、パパは大丈夫にしてやるぞ、とロジャーは黙って約束をした。
ミス・グレンデニングと素手で戦うことになっても。

『どうして、ゲール語で話すのが悪いことなの?パパ?』と彼は、あまりに感情的になったあまりにくたびれ果てて、つぶやいた。
『悪いことじゃないよ。』とロジャーはささやき、ジェムの絹のような髪を耳のうしろになでつけた。
『心配しなさんな。ママと僕とで何とかする。約束する。それに、明日は学校へ行かなくてもいいぞ。』
ジェムはそれを聞いてため息をつき、一袋の穀物のようにぐったりとした。
それから頭を持ち上げ、小さなくすくす笑いをもらした。
『パパ、ママはメンチス先生を、ひどい目に合わせると思う?』

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