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2011年6月 5日 (日)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま27 湾の牡鹿2

またまた間があいてしまいました。
ブリアナが仕事に出かけたとき、台所でガチャンと音がしたのにロジャーが気づいたところでしたね。


マンディは、どうやってそうしたのかは神のみが知るところであるが、シャンペンボトルを投げて窓ガラスを割り、ロジャーが走りこんだときは、テーブルの上に立ってちょうど割れたガラスの端に手を掛けたところだった。

『マンディ!』
彼はマンディを掴んでテーブルから引きずりおろし、続いて彼女のおしりを一度平手で叩いた。彼女は耳をつんざくような金切声をあげたが、ロジャーはマンディを抱えたまま、敷居のところで口と目を丸いO(オー)の形に明けているアニー・マックの脇を通って台所の外に連れ出した。
『窓ガラスを何とかしてくれるね?』と彼女に言った。
ロジャーは、地獄に落ちたかのような罪の意識を感じていた。
マンディに瓶を渡すなんて、何を考えていたんだろうか?
ましてや瓶を持たせたまま、一人で放って置いたなんて!

彼はまた、アニー・マックに対しても、いくらかいらだちを感じていた。
ともかく彼女は、子供たちの面倒をみるために雇われているのだ。
しかし彼もまた、部屋を出る前に彼女が戻ってきたか、確かめるべきだったのだ。

ブリアナに対しても同様に、いらだちを感じた。
自分の新しい仕事に夢中になって飛び込み、彼が家の面倒をみるのが当然だと思っているからだ。

ロジャーにはこのいらだちが、自分の罪の意識から逃れるための悪あがきに過ぎないことはわかっていたので、考えないようにした。そしてマンディをなだめ、テーブルの上に立ってはいけないとか、家の中で物を投げてもいけないとか、とがったものに触ってはいけないとか、助けが必要なら大人を呼ぶべきだなどの話をしながらも、ありそうにもないことだと内心皮肉に微笑んだ。マンディは、彼が今まであった中でも最も独立心の強い三歳児なのだ。それは何かを意味している、と彼は同じ年のときのジェムのことを考えた。

アマンダについて、ひとつ言えることがある。彼女は、恨みは持たない。叩かれて叱られた5分後に、彼女はくすくす笑い、彼に人形で遊んでくれとねだっているのだ。

『パパは今朝、仕事があるんだ。』と彼は言ったが、かがんでマンディが肩によじ登れるようにした。『おいで、アニー・マックを探そう。君とお人形で、アニーが貯蔵庫を整理するのを手伝えるかも。』

マンディと同じくブリアナも、独立心が強くて思い通りにはならないのさ。
君はきみで、自分のやり方に自信を持つしかないのだ、ロジャー。
苦労人ロジャーに応援のクリックを!
(それにしても久しぶりすぎて、何の話か、忘れちゃったぞ、という方も、がんばって書けという、おしかりののポチをお願いします。)
後半、クレアやジェイミートのつながりが、少しだけ出てきます。
おたのしみに。

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ぼろぼろの人形たちと汚れたぬいぐるみの動物たちに監督されながら、貯蔵庫でマンディとアニー・マックが楽しそうに仕事をし始めると、ロジャーは事務室に戻り、帳面を取り出した。その帳面に、ロジャーは記憶に残そうと骨身を惜しんでいる歌を書き写しているのだ。

ロジャーはこの週の後半に、シグフィールド・マックリード氏と話をする約束をしていた。彼は聖スティーブンス教会の聖歌隊指揮者で、ロジャーにいくつかの珍しい歌の楽譜を好意でプレゼントしようと考えているのだ。
ロジャーも、その好意が本当に必要にちがいないと考えた。
ウェザースプーン博士は、マックリード氏が喜んで助けてくれるだろうと太鼓判を押してくれた。特に子供たちの合唱についてだ。
しかしロジャーは学問のサークル、フリーメーソンの集会所、そして18世紀の居酒屋で、地方におけるかけひきがどのように動くものなのかを学ぶのには十分な時間を過ごしてきた。
マックリード氏は、よそものを煙たがるかもしれないのだ。たとえば警告なしに、何か押し付けてくるとか。
それにまた、歌えない聖歌隊指揮者の助手という、微妙な問題がある。ロジャーは、のどに触った。そこには点々と傷が残っている。

ロジャーは、2人の専門家に会っている。一人はボストンで、もう一人はロンドンでだ。
どちらも、同じことを言った。
外科手術で、ロジャーの声が良くなるという可能性はある。気管にある傷を取り除くのだ。しかし、外科手術でもっと悪くなるか、完璧に声が出なくなる可能性も、同じくらいあるのだ。
『声帯の手術は、非常にデリケートなのです。』と一人の医者は、頭を振りながらロジャーに言った。『何らかの緊急性がない限り、ふつうはその危険を冒さないものです。たとえば、癌が広がっているとか、話ができないほど先天的に奇形であるとか、何かの専門家としての理由などです。それはたとえば、有名な歌手に腫瘍ができたときなどです。この場合、声を取り戻すことは、この手術の危険を冒すに足る動機となりましょう。しかしその他の場合では、永遠に口がきけなくなってしまうという事態よりも危険なことなどは、そうはないのです。ましてやあなたの場合には・・・』

ロジャーは2本の指をのどに当てて、ハミングをし、振動を感じて安心した。
だめだ。彼は話ができなければどんな気持ちがするのかを、あまりにも鮮明に覚えていた。あの時、2度と話ができないと、ましてや歌えなどしないと、固く信じていた。
まただ。あの時の絶望感がよみがえり、冷や汗が出てきた。2度と子供たちと、あるいはブリアナと話せないなんて!いや、彼にはそんな危険は冒せない。

ウェザースプーン博士の目は、興味深げにロジャーののどに釘付けになったが、彼は何も言わなかった。マックリード氏は、もう少し機転がきかないかもしれない。
『神は、愛するものを試練される。』
ウェザースプーン博士は、彼の名誉のために言えば、会話の中でそのことに触れなかった。しかしこの言葉こそ、その週の聖書の読書会で選ばれた引用句だったのだ。それはちらしに印刷され、教区牧師の机の上に置かれていた。
そして今のロジャーの神経過敏な心の状態では、すべてのことがメッセージのようにみえた。

『わかりました、もしそれがあなたの思し召しならば、お礼を言います。』とロジャーは声を出して言った。『でもせめて今週だけは、あなたの愛するものではなく、試練を与えないでいただけると。』

それは、半分冗談のように言った言葉だが、その背後に怒りがあるのは否めなかった。
もう一度、自分を自分自身に証明しなければならないことへ対する憤慨である。
前回は、肉体的に証明しなければならなかった。
このすべりやすく、あまり率直でない世界で、今度は精神的に、また自分を証明しなければならないのか?前回私は、喜んでやらなかったのか?

『あなたは私に、求められた。それ以来、私からは『イエス』以外の答えを受けとっていないはずです。私には、何かが欠けているというのでしょうか?』

ブリアナは、何かが欠けていたにちがいないと考えていた。
2人の言い争いのハイライトを思い出して、ロジャーは恥ずかしさに赤くなった。

『あなたには、あったんじゃないの? いえ、あなたにはあったと、私が思っていたんじゃないの?』とブリアナは言いなおした。『使命というものが!それはプロテスタントの言い方じゃないかもしれないけれど、そうでしょ?あなたは神が語りかけてくれたと、私に言っていたじゃない!』彼女の目は、彼をしっかり凝視していた。あまりに突き刺すようだったので、彼は目を逸らしたくなったが、そうしなかった。
『あなたは、神が考えを変えたとでも言うの?』ブリアナは、もう少し静かに尋ね、手を彼の腕に置いて、それを掴んだ。『それとも、自分が間違えたとでも思っているの?』
『いや、』と彼は、思わず反応して言った。『そんなことはない、あんなことが起こったときは・・・、そう、あれは実際に起こったのだ。それは間違いない。』
『それで、今は?』
『君は、まるでお母さんのようだ。診断をしている。』
ロジャーは、冗談を言おうとしたが、それは冗談ではなかった。
ブリアナは身体的には父親似で、クレアらしさをほとんど感じなかったが、質問の中にある静かだけれど容赦ないところは、まるでクレア・ビューチャンプが甦ったようだった。また、片方の眉が答えを待って、少し吊り上っている所もだ。
彼は深く息を吐いた。『僕には、わからない。』
『いいえ、あなたはわかっている。』
怒りが込み上げてきた。
突然に、激しく。彼は彼女の掴んでいた腕を振り払った。
『僕が何を知っているのか、なぜ君が言えるのか!』
彼女は目を見開いた。
『私は、あなたと結婚しているのよ。』
『君は、僕の心を読む権利があるとでも言うのか?』
『私には、あなたを心配する権利があるのよ!』
『ならば、やめてくれ!』

2人はもちろん、仲直りをし、キスをした。そう、それ以上のことも少し。で、お互いに許しあった。許すということは、もちろん、忘れるということではない。

『あなたは、わかっている。』
今、わかっているのか?

『わかっている。』と彼は、窓の外に見える塔に向かって、断言した。『そう、僕は嫌になるほどよくわかっている!』
では、何をすべきなのか。そう、それが難問なのだ。
彼は、おそらく牧師になるべきではあったが、長老派のではなかったのか?無宗派か、福音派、あるいは、カトリックになるべきだったのか?

その考えが、とても気に掛かったので、ロジャーは起き上がって、少しの間、前後に歩き回らなければならなかった。

気に掛かった理由は、カトリックに対する反感がないから、というのではない。プロテスタントとして、ハイランドで過ごしてきた日々の反射作用というわけでもない。
単に、よく想像できなかったのだ。

『ローマカトリックへ改宗した』というのが、オギルヴィー夫人とマックニール夫人とその他の人々が考えそうなことだった(『一直線に行悪い所へく。』というのが、口にされない暗喩になるだろう。)
彼の裏切りは、低い、恐れを込めた声で語られるだろう・・・おそらく何年もの間。
彼はその考えに、いやいやながら微笑んだ。

それに、その上、彼はもはや、カトリックの牧師にはなれない。なれるだろうか?ブリアナと子供たちなしに(牧師は独身なのだ。)
この考えは、ロジャーを少し冷静にさせた。彼は再び座り込んだ。
いや、彼は信じなければならない。
ウェザースプーン博士の世話を通して、神がロジャーに道を示してくださったのだと。
その道は、特別に茨の多い道であるにもかかわらず。
そして、神が示されたということは・・・
そう、そのこと自体が運命予定説を証拠づけてはいないか?

ロジャーはうめいた。
頭からすべてを振り払い、帳面に没頭しようと全力を尽くした。
そこに彼が書き込んだ歌や詩のいくつかは、広く知られたものだった。
以前の生活から選り抜いてきた、ロジャー自身が歌い手として歌ってきた、伝統的な歌だ。
珍しいものの多くは、彼が18世紀の生活の間にスコットランドからの移民や居酒屋、行商人、船乗りなどに教えてもらったものだ。
またいくつかは、ウェイクフィールド叔父が残した埋蔵品の箱から掘り出してきたものである。
古い牧師館のガレージは、その箱でいっぱいで、ロジャーとブリアナはそれらにまだほとんど手をつけていないのだ。
ロジャーがここへ戻ってきてまだ間もないうちに、手紙のつまった木製の箱を見つけたのは、まったくの偶然だったのだ。

ロジャーは、その考えに惹かれて、顔をあげた。
ブリアナなしには、手紙を読むわけにいかない。
勝手に読むのは、正しくないことだ。
しかし、あの2冊の本ならば・・・

2人は、その箱を見つけたとき、いっしょに入っていた本にも簡単に目を通しはした。
でもそのときは、手紙とそれに書かれているクレアとジェイミーに何が起こったのかを知ることに、ほとんどの関心があった。
まるでジェムになって、チョコレート・ビスケットの箱を持って逃げ出したかのような気持ちで、ロジャーは手紙の箱をそっと下に降ろした。
その箱は、とても重かったのだ。
そして机に上に置いて、手紙の下を探った。

本はどちらも小さく、大きい方でもクラウン八つ折判と呼ばれる5インチ×7インチのサイズ(日本のB6判より少しこぶり)であった。
紙が効果で手に入りにくかった時代には、そのサイズが一般的だったのだ。
小さい方は、クラウン16折判と呼ばれるようで、4インチ×5インチ(日本の文庫本より少しこぶり)でしかなかった。
ロジャーは、イアン・ムレイのことを考えて、微笑んだ。
トイレット・ペーパーについて話した時、いとこイアンがいかにけしからんことだという反応をしたのか、ブリアナが話してくれたのだ。
それ以来、ロジャーには無駄遣いしているという意識なしに尻を拭くことができいなくなってしまったのだ。

小さい方の本は、青く染めた子牛の皮に丁寧に綴じられていて、ページの端には金箔が塗られていた。
高価で、美しい本だった。
『保健の豆辞典』という標題がつけられ、著者:医師C.E.B.F.フレイザー、A.ベル(エジンバラ)による限定出版、と書かれていた。
その事実に、ロジャーに小さい戦慄を感じた。
ということは、2人はトラストワーシィ・ロバーツ船長のもと、スコットランドに着いたのだ。
いや少なくとも、着いたに違いないと思える。(とロジャーの中の学者の部分が、これだけでは証拠にならないと警告した。というのは、著者が持参しなくても、原稿だけがなんとかスコットランドに着いたという可能性もあるからである。)

彼らは、ここに来たのだろうか?とロジャーは考えた。
彼は、使い古されているけれど居心地のよい部屋を見まわして、そこにいるジェイミーをたやすく想像することができた。彼は窓のそばの大きな古い机の所に座り、義兄弟(イアン)と農場の帳簿に目を通しているのだ。もしも台所がこの家の心臓ならば(そしてそれは事実その通りだった)、この部屋こそがこの家の頭脳なのだ。

衝動にかられ、ロジャーはその本を開き、あやうく息を詰まらせかけた。
本の口絵には、18世紀の慣例のスタイルにのっとり、著者の肖像画が描かれていた。
それは一人の医師、髪をきれいに1つにまとめ、高い襟のついた黒い上着をはおった男だった。
その上に、ロジャーの義理の母親の顔が、彼自身を落ち着いて見つめていた。
ロジャーが大きな笑い声をたてたので、アニー・マックが怪訝な顔をして、ロジャーがひきつけを起こしたり、独り言を言ったりしてはいまいかと心配して、部屋をのぞき込んだ。
ロジャーは彼女に手を振って去らせ、ドアを閉めて、本に戻った。

よろしい。これはクレアだ。
濃い眉の下の離れた2つの目、頬の優美な固い骨、額、顎。
その肖像画を描いた者が誰であるにせよ、その画家はクレアの口は再現できていなかった。本物はもう少しいかめしい形だ。誰も彼女のような唇の人はいない。

何歳だろうか?
ロジャーは印刷の日付を確かめた。
ローマ数字で書いてある。MDCCLXXVIII、1778年だ。
最後に会ってから、そんなに経っていない。
それにしても、彼が知っているよりもずいぶん若くみえる。

もう1冊には、ジェイミーの画が描かれているのだろうか?
ロジャーはそれつかんで、開いてみた。
確かに、そこには別の銅版画が描かれていた。
こちらはもう少し家庭的な雰囲気である。
義父が安楽椅子に座っていた。
髪は後ろで簡単にまとめられ、プレードが背後の椅子に掛けられて襞をつくり、膝の上に1冊の本を広げていた。
彼は、もう一方の膝に座った小さなこどもに、その本を読んでいた。
その子は、黒っぽいカールの髪をしていた。
彼女は話に夢中になって、顔を向こうに向けていた。
もちろんだ。画家には、マンディがどんな顔なのか、わからないのだから。

『おじいちゃんのおはなし』と標題がつけられ、副題は『スコットランドのハイランド地方と、植民地奥地に伝わる物語』であった。著者:ジェームス・アレキザンダー・マルコム・マッケンジー・フレイザー、そして印刷会社は再び、A.ベル(エジンバラ)、出版の年も同じだった。
献辞はシンプルに、『私の孫たちへ』。

クレアの肖像画は笑わせてくれたが、これにはロジャーはほとんど涙ぐむほど心を動かされ、そっと本を閉じた。
2人は、なんて信頼してくれていたのだろう!
これらの品々、こわれやすい文書をこしらえ、とっておき、年月を越えて、送ってくれたのだ。これらが残り、思っている相手に届いて欲しい、というささやかな望みを託して。
いつの日か、マンディがここに来て、これらを読んでくれると信じていたのだ。
ロジャーは、のど元の塊を、つらい想いで飲み込んだ。

どんなふうに、やってのけたのだろうか?
2人は、信頼こそ山をも動かすと言っていた。
もっともロジャー自身の信頼は、今のところモグラ塚と平らにすることすらままならないようなのだが。
『ジーザス。』とロジャーはつぶやいた。
それが単に欲求不満から来たつぶやきなのか、助けを求めた祈りなのか、よくわからなかった。

そのとき、窓の外の動きが目を惹き、目をあげたロジャーは、ジェムが台所のドアから出てきて、家の端の方へ行くのを見た。
ジェムの顔は赤く、小さな肩を丸め、片手に大きなひもで編んだ袋を持っていた。中にレモンスカッシュの瓶とパンの塊、その他いくつかの食料品らしいふくらみが入っているのが見えた。
驚いて、ロジャーは暖炉棚の時計を見た。
完璧に時間を忘れてしまっていたのかと思ったからだ。
しかし、そんなことはなかった。
まだ1時だったのだ。

さて、ジェムには何があったのでしょうか?
次回をお楽しみに。

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