原書

2011年6月27日 (月)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま30 トンネルの中の虎

あらぁ、今週の週末更新を逸してしまったわ。
ごめんなさいね。
進歩といえば、職場のホタルを捕獲して(それも雄と雌のゲンジボタルよ)、繁殖計画の第一歩を踏み出したことだわね。
乞う、ご期待!


ブリアナが最初に災難に気付いたのは、軌道に差し込んだ一条の光が小さくなり、巨大なドアが閉まって、背後でトンネルの中の空気を振動させるような大きい『バァーン!』という音がして、暗闇になってしまったときである。

ブリアナは、もしジェムが言ったなら即、その口を洗ってしまっただろうような言葉を使って罵った。
それは心からの怒りで口にしたが、息をひそめて言った。
というのは、ドアが閉まったとたんに何が起きたのか気付いたからだ。

何も見えなかった。
ただ、網膜が突然の暗闇に反応して見える、ぐるぐる回る色彩だけが見えた。
しかしブリアナはトンネルの中に3メートルしか入っておらず、ボルトが差し込まれる音が聞こえた。ボルトは鋼鉄のドアの外側の大きなハンドルで動かされ、骨が噛み砕かれるようなガリガリとこすれる音をたてた。

ブリアナは振り返り、注意深く5歩数え、手を前に伸ばした。
そうよ、ドアがあるわ。大きくて、固くて、鋼鉄製。そして今はしっかりロックされている。
外で笑っているのが聞こえた。

くすくすとね!とブリアナは怒りに彩られた侮蔑を込めて思った。まるで小さい男の子!
小さい男の子だわ、実際のところ。
ブリアナは、怒りとパニックを振り払うために、何度か深く息をした。
暗闇によるめまいが消えた今、彼女には細い光の線が見えた。
それは15フィート(4.5メートル)のドアを縦に分断していた。
一人の男の高さの影がそれを遮っていたが、ささやき声とくすくす笑いが聞こえ、ぐいっと下がった。
誰かが覗こうとしたんだわ。馬鹿なやつ。
この中の何かを見ようとするなんて、幸運を祈るわ。
髪の毛の太さの光を除いたら、ロッホ・エロクティの下にある水力発電所のトンネルは、地獄の穴のように真っ暗だった。

少なくとも、方向を定めるために、あの髪の毛の光は使える。
それでも、慎重に呼吸をしながら、ブリアナは注意深く足を踏み出して、左の方へ進んでいった。
彼女は、けつまづいたり、音を立てて転んで、外側にいるヒヒたちを必要以上に喜ばせる気はなかった。
そちらの壁には金属製の箱があって、トンネルの光源をコントロールしているスイッチがあるはずだ。

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あれ?ブリアナはいつ水力発電所の調査官としての面接に行ったんだっけ?という方は、こちらをごらんください。あまり詳しくは書かなかったのですが・・・

An Echo in the Bone 骨の中のこだま3

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2011年6月18日 (土)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま29 湾の牡鹿4

学校から帰ってきてすぐ、家を飛び出したジェム。
学校で、何があったのか、明らかになります。


『ここにいるよ、ダ!』
ジェミーの声が、上の方から聞こえてきた。少し震えている。
ロジャーは振り向いて、ジェムが『樽のひとはね』の上に座っているのを見つけた。
網の袋を胸に抱えている。
『OK,じゃ、降りておいで。』
安心感が、困惑と闘ったが、徐々に打ち勝った。
ロジャーは手を伸ばし、ジェムは岩をすべりおりて、父親の腕の中にどさっと納まった。

ロジャーはぶつぶつ言って、ジェムを座らせ、地面に落ちていた網の袋を取り上げるためにかがんだ。パンとレモンスカッシュに加え、いくつかのリンゴと、チーズの大きな塊、それかたチョコレートビスケットが一箱入っていた。

『少しここにいようと思っていたんだね?』とロジャーは尋ねた。
ジェミーは赤くなって、脇を向いた。
ロジャーは振り返り、斜面を見上げた。
『あそこだよね?おじいちゃんの洞窟は?』
ロジャーには、何も見えなかった。
斜面には、ヒースと岩がごちゃまぜになり、そこに沢山の発育の悪いハリエニシダの茂みと、まばらなナナカマドやハンノキの幼樹が混ざっていた。

『あい、ちょうどそこだよ。』と、ジェミーは斜面の上の方を指差した。
『あの、魔女の木がもたれているところ、わかる?』

ロジャーは、ナナカマドの成長した木が、年齢のためにこぶになっているのを見た。
もちろん、ジェイミーの時代からそこに生えていたわけではないだろう。それとも?
だが洞窟の入り口の気配はなかった。
下の方で起きていた戦いの音がやんだ。
ロジャーは、負けた方の鹿がこっちへ戻ってこないかと見まわしたが、明らかに大丈夫そうだった。
『パパに見せてくれる?』とロジャーは言った。
ジェムは、とても居心地悪そうだったが、この言葉で少しくつろいだようで、振り返って、斜面を登りはじめた。ロジャーは、すぐ後を追った。

たぶん、その洞窟の入り口の隣に立っていても、まったく気づかなかっただろう。
その入り口は、岩石の露頭(がけ)とハリエニシダのこんもりとした植生で隠されていた。正面に立たない限り、その狭い隙間を見つけることはできない。

洞窟から、一陣のひんやりとしてしめった風が、ロジャーの顔に向かって吹き出した。
彼はのぞきこもうと、ひざまずいた。
数フィート(50㎝から1mくらい)以上は見えなかったが、あまり居心地はよさそうでなかった。

『ここで寝るのは、寒かっただろう。』と彼は言った。
そしてジェムを見て、そばの岩の方へ身振りをした。
『座って、学校で何が起きたのか、話してみないか?』

ジェムはつばを飲み込み、体重を左右に移動させた。
『嫌だ。』

『座りなさい。』
ロジャーは声を荒げなかったが、従うべきだということは明らかにした。
ジェムは、きちんと座りはしなかったが、後ろ向きにずれて、洞窟の入り口を隠している岩でできた露頭にもたれた。彼は目を上げなかった。

『むち打ちされた。』
ジェムは、あごを胸にうずめたまま、つぶやいた。

『そうかい?』
ロジャーは、平静な声で言った。『そりゃ、たいへんだったね。僕も生徒だったころ、一度か二度はやられたが、好きじゃなかったな。』

ジェムの頭が跳ね上がった。目が見開いていた。
『あい?なぜやられたの?』
『けんかさ、主にね。』とロジャーは言った。
ジェムに言うべきではなかったかもしれないが(悪い例だからだ)、それは事実だった。
それに、もしジェムの問題がけんかなら・・・

『今日やったのは、けんかかい?』
ロジャーは座りながらジェムにざっと目を走らせ、今度は近くから観察した。
ジェムは、怪我はしていないようだ。
しかし、向こうを向いたとき、ロジャーは耳がどうかしているのに気付いた。
耳は真紅に染まり、耳たぶはほとんど紫色に近かった。
ロジャーはそれを見てあまりに驚き、思わず『何が起こったの?』と繰り返した。

『ジャッキー・マッケンローが、むち打ちのことを聞いたら、家でもう一発パパからむちをもらうって、言ってた。』
ジェムはつばを飲み込んだが、今度は自分の父親をまっすぐ見つめていた。
『パパ、そうするの?』
『わからないな、そうしたくはないね。』

ロジャーはジェミーと一度せっかんしたことがある。そうしなければならなかったのだ。
そしてどちらも、もう二度とそれを経験したくはなかった。
ロジャーは手を伸ばし、ジェムの燃えるような耳にそっと触れた。

『息子よ、何が起きたのか、話してごらん。』
ジェムは深く息を吸って、ほおを膨らませ、それからあきらめて息を吐きだした。


がんばれ、ジェム、
小さなジェムと、今週も頑張って更新できた私に、応援のクリックを!
ここのところQueenにはまり、ずっとBGMで流しながらPCに向かっています。

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2011年6月11日 (土)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま28 湾の牡鹿3

『いったい何が・・・』
ロジャーは本を脇に置き、立ち上がって家の裏手に出た。
あやういところで、ウィンドブレーカーとジーンズを着たジェムの小さい姿が(学校へジーンズで行ってはいけなかった)、牧草地を横切っていくのが見えた。

ジェムのスピードについていくのは難しかったが、そのかわりにロジャーはペースを落として、距離を置いて後をつけた。
明らかに、ジェムは病気ではなかった。
おそらく、何か劇的なことが学校であったのだろう。
学校側がジェムを家に帰したのか、それとも勝手に帰ってきてしまったのだろうか?
まだ誰からも電話はなかったが、昼食時間を過ぎたばかりなので、ジェムが逃げ出してきたのなら、いなくなったことに気付かれていないのかもしれない。
学校からは歩いてほぼ2マイルの道のりで、そんな距離はジェムにとっては何でもない。
ジェムは野原をさえぎっている石垣に着き、それを飛び越え、さらに羊でいっぱいの牧草地を、方向を見定めて横切って行った。
どこへ向かっているのだろうか?
『それに、なぜ今それをやらなきゃならないんだ?』とロジャーは独り言をいった。

ジェムはまだ、ブロッホ・モルダ村立学校に数か月しか通っていなかった。
これが彼にとって、20世紀の学校生活の最初の経験なのだ。

こちらに帰ってきてから、ブリアナがマンディを死から救った手術の後回復するまで共に過ごす間、ロジャーはボストンで彼の個人教授をした。
マンディが元気になって家に帰れるようになって、一家は次にどうするべきか決めなければならなくなった。
ボストンではなく、スコットランドへ行こうと決めたのは、主にジェムだった。
ブリアナも、そう思ってはいた。
『スコットランドは、こどもたちのの遺産なのよ。』と彼女は言った。
『いずれにせよ、ジェムにも、マンディにも、両親のどちらもがスコットランド人なのよ。彼らにそれを残してあげたいのよ。』
そして言うまでもなく、祖父とのつながりだ。

ロジャーも議論したが、ジェムがスコットランドではあまり目立たないだろうと認めた。
テレビとアメリカ合衆国での数か月の生活にも関わらず、ジェムはいまだに強いスコットランド訛りで話すので、ボストンの小学校では目立つに違いないからだ。
おまけに、訛りがなくても、ジェムは人の注意を惹きつけるタイプの人物なのだということを、ロジャーは個人的に感じていた。

さらに、ラリーブロッホの生活やハイランドの小さい学校で過ごすことは、ジェムがノースカロライナで親しんできたものとかなり近いものだということには、疑いもなかった。
子供たちが天然に持っている柔軟性を考慮しても、直面したものに対して、ジェムがたいへんうまく順応してきたとロジャーは感じていた。
自分自身がスコットランドでどのような見通しがあるかといえば・・・それについては、沈黙を守るべきだろう。

ジェムは、牧草地の端に着き、道路へ出る門の前で邪魔をしていた一群の羊を追い払った。一頭の黒い雄羊が頭を下げてジェムを脅したが、ジェムは羊に邪魔はされなかった。
叫んで、持っていた袋を振り回すと、雄羊は驚き、素早く後ろに下がって、ロジャーを微笑ませた。



おーい、ジェム君、どこ行くの?
今回は、ジェムの悩みについてです。
おじいちゃん(ジェイミー)似のジェムに、学校でいったい何がおきたのでしょうか?
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2011年6月 5日 (日)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま27 湾の牡鹿2

またまた間があいてしまいました。
ブリアナが仕事に出かけたとき、台所でガチャンと音がしたのにロジャーが気づいたところでしたね。


マンディは、どうやってそうしたのかは神のみが知るところであるが、シャンペンボトルを投げて窓ガラスを割り、ロジャーが走りこんだときは、テーブルの上に立ってちょうど割れたガラスの端に手を掛けたところだった。

『マンディ!』
彼はマンディを掴んでテーブルから引きずりおろし、続いて彼女のおしりを一度平手で叩いた。彼女は耳をつんざくような金切声をあげたが、ロジャーはマンディを抱えたまま、敷居のところで口と目を丸いO(オー)の形に明けているアニー・マックの脇を通って台所の外に連れ出した。
『窓ガラスを何とかしてくれるね?』と彼女に言った。
ロジャーは、地獄に落ちたかのような罪の意識を感じていた。
マンディに瓶を渡すなんて、何を考えていたんだろうか?
ましてや瓶を持たせたまま、一人で放って置いたなんて!

彼はまた、アニー・マックに対しても、いくらかいらだちを感じていた。
ともかく彼女は、子供たちの面倒をみるために雇われているのだ。
しかし彼もまた、部屋を出る前に彼女が戻ってきたか、確かめるべきだったのだ。

ブリアナに対しても同様に、いらだちを感じた。
自分の新しい仕事に夢中になって飛び込み、彼が家の面倒をみるのが当然だと思っているからだ。

ロジャーにはこのいらだちが、自分の罪の意識から逃れるための悪あがきに過ぎないことはわかっていたので、考えないようにした。そしてマンディをなだめ、テーブルの上に立ってはいけないとか、家の中で物を投げてもいけないとか、とがったものに触ってはいけないとか、助けが必要なら大人を呼ぶべきだなどの話をしながらも、ありそうにもないことだと内心皮肉に微笑んだ。マンディは、彼が今まであった中でも最も独立心の強い三歳児なのだ。それは何かを意味している、と彼は同じ年のときのジェムのことを考えた。

アマンダについて、ひとつ言えることがある。彼女は、恨みは持たない。叩かれて叱られた5分後に、彼女はくすくす笑い、彼に人形で遊んでくれとねだっているのだ。

『パパは今朝、仕事があるんだ。』と彼は言ったが、かがんでマンディが肩によじ登れるようにした。『おいで、アニー・マックを探そう。君とお人形で、アニーが貯蔵庫を整理するのを手伝えるかも。』

マンディと同じくブリアナも、独立心が強くて思い通りにはならないのさ。
君はきみで、自分のやり方に自信を持つしかないのだ、ロジャー。
苦労人ロジャーに応援のクリックを!
(それにしても久しぶりすぎて、何の話か、忘れちゃったぞ、という方も、がんばって書けという、おしかりののポチをお願いします。)
後半、クレアやジェイミートのつながりが、少しだけ出てきます。
おたのしみに。

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2011年3月10日 (木)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま26 湾の牡鹿

ロジャーはスタウト・ビールの空き瓶の口を、注意深く吹いて、ボーという音をたてた。
もう少しだ。
少し深く息を吹き込もう。
もちろん、あの唸り声にあった、ひもじそうな音色には欠けている。
でも音程は…
彼は起き上がり、冷蔵庫の中をあさり、チーズと何が入っているのかわからないマーガリンの容器(中身がマーガリンではない方に賭けてもよい)の後ろを探った。

シャンペン・ボトルの中は、1インチ程しか残っていなかった。それは、1週間前にブリアナの就職を祝ったディナーの残りなのだ。
誰かが瓶の口をつましくアルミホイルで覆っていたが、もちろんシャンペンは気が抜けていた。
ロジャーは中身を流しに捨てに行ったが、生涯にわたるスコットランド人としての倹約精神はそう簡単に無視できなかった。少しの躊躇もなく、彼は残りのシャンペンを飲み干した。
瓶を下しながら、アニー・マクドナルドがアマンダと手をつなぎ、彼をじっと見ているのに気付いた。

『少なくとも、それをコンフレークスにかけようとしているわけじゃないわよね。』と彼女はロジャーの脇をすり抜けながら言った。
『さあ、ペットちゃん』と言って、マンディを子供用の椅子に座らせ、雇い主のモラルの低さに頭を振りながら、部屋を出て行った。

『パパ、ちょうだい!』マンディは、輝くラベルに惹かれて、シャンペンの瓶に手を伸ばした。
親として一瞬ためらったロジャーの頭の中に最後が破壊行動で終わるいくつかのシナリオがよぎり、マンディには代わりにコップ1杯のミルクを渡し、シャンペンの瓶の細く伸びた口を自分で吹いて、深みのある音楽的な音を響かせた。

『パパ、もう一回!』マンディは惹きつけられた。
ロジャーは少し自己満足に浸ってもう一度音を出し、マンディは笑い転げた。
彼は、黒ビールの瓶を取り上げて吹き、それらを取り替えながら、『メリーさんの羊』のリズムで2つの音による変奏曲を演奏した。


お久しぶりです。
これからしばらく、ロジャーとブリアナたちの時代に変わります。
そういえばロジャーは音楽家でしたね。
この瓶の音で、何を表そうとしているのでしょうか。
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2011年3月 6日 (日)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま25 深海から2

『ジーザス・H・ルーズベルト クライスト!』とジェイミーの個人的な船首像がそう言いながら、とても心配し気をもんだ表情をして、突然傍らに現れた。
『あなたの手が!』
『あい?』とジェイミーは、心地悪さに不機嫌になって、その手を見下ろした。
『何がいけないのだ?指はみんな附いている。』
『その手について、まともなのはそれだけよね。まるで、ゴルディオスの結び目のように見えるわ!』
クレアはジェイミーの脇に跪き、両手に彼の左手を包み込み、力強くマッサージを施した。
それは明らかに効果的だったが、同時にとても痛烈だったので、ジェイミーの目に涙が滲んだ。彼は両目を閉じて、喰いしばった歯の間から、ゆっくりと呼吸をした。

クレアはジェイミーを、一度にたくさん書きすぎたと言って、なじった。
いったい何をそんなに急いで書いていたの?

『私たちがコネティカットに着くには、何日もかかるのよ。それに、スコットランドまでは何か月もよ。行くまでの間に1日1行書いても、まだ『詩編』を全部引用できる時間があるのに。』
『俺は、書きたかったんだ。』と、ジェイミーは言った。

クレアは、何やら見下したことをぶつぶつと呟いた。その中に『スコット』と『ブタ頭』という言葉が聞こえたが、ジェイミーは気づかないふりをすることにした。

そう、ジェイミーは書きたかったのだ。書くことで、彼の考えが白黒はっきりと整理され、紙に書くということで、安心することができたのだ。
さもなければ心配事は、まるで泥の中のマングローブの根っこのように、頭の中に詰まってしまうのだった。

それに、そのこと以上に…屈んでいる妻の頭のてっぺんを注視しながら、ジェイミーは考えた。逃げ場が欲しかったのではない。…ノース・カロライナの海岸が遠くに去っていくのを見ると、娘とロジャー・マックから離れていくように感じ、彼らに手紙を書くことで得られる、繋がっているという感じが欲しかったのだ。

 『もう一度、会えると思う?』とファーガスは、別れる直前に聞いたのだ。『フランスに行くんでしょう?』
ファーガスとマーサリ、それにリッジの人々が知る限りでは、ブリアナとロジャーは戦争を避けるためにフランスに行ったということになっていた。
『いや。』とジェイミーは言ったが、心が寒々としているのが声に現れていなければ、と願っていた。『二度と会えないと思う。』

ファーガスの力強い右手が、ジェイミーの腕をぐっと掴み、それから力が緩んだ。
『人生は長い。』と彼は静かに言った。
『あい。』とジェイミーは答えたが、(誰の人生も、それほど長くはない。)と心の中で考えていた。

ジェイミーの手は、少し良くなってきた。クレアはまだマッサージを続けていたが、その動きはもはやそれ程痛くはなかった。
『私も、会いたいわ。』とクレアは静かに言って、ジェイミーの拳にキスをした。『手紙をちょうだい。私が書き終えるわ。』


さすが、ヒーラー、クレアさん。
家族が離れ離れって、悲しいね。
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2011年2月19日 (土)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま24 深海から

25章 深海の深みから

1777年5月15日

親愛なる君たちへ

 私は船が嫌いだ。
骨の隅々から、船を憎んでいる。
それなのに、私はまた、海のとんでもない深みの上を漂っているのだ。
乗っているのは、『トランキル・テール(透き通ったしっぽ)』という船で、そのばかげた名前からも、船長の深刻な気まぐれぶりが覗えるというものである。
この紳士は、混血の密輸人で、邪悪な表情、程度の低いユーモアの持ち主であり、私に真面目な顔で、自分の名前が『トラストワーシィ・ロバーツ(信用するに足るロバーツ)』だと名乗ったのだ。


 ジェイミーは、羽ペンをインクに浸すために書く手を休め、遠ざかっていくノースカロライナの岸壁に目をやった。
しかしそれが不規則に持ち上がったり、下がったりしているのを見て、急いで視線を紙面に戻した。その紙面は、頭上の帆を膨らませている風に飛ばされないように、簡易テーブルにびょうで止めたものである。
 『私たちは、みんな健康である。』と彼はゆっくり書いた。
船酔いのことは、脇に置いておいた。それについて書こうとは、思っていない。
ファーガスのことは、伝えるべきだろうか?
ジェイミーは、悩んだ。

 「気分はどう?」
ジェイミーは、クレアを見上げた。
クレアはかがんで、あの注意深い好奇心を秘めたまなざしでジェイミーを見つめていた。
そのまなざしは、彼女がいつも、吐きそうだったり、血をまき散らしていたり、死にそうだったりする人々のためのとっておきのものだった。
ジェイミーはすでに、最初の2つはやらかしていた。
というのは、クレアがうっかり彼に針の治療を施す時に、頭皮の小さい血管にそのうちの1本を刺してしまったからだ。
でもジェイミーは、クレアが彼の死の兆候に気づかないといいな、と思った。

 「そうだね、まあまあだ。」
ジェイミーは、自分の胃袋のことを、考えることさえ避けたかった。
気にすることで、胃袋が調子に乗ることを恐れたからだ。
それ以上議論しないように、話題を変えた。
「ブリアナとロジャー・マックに、ファーガスのことを伝えるべきだろうか?」
「インクはどのくらい残っているの?」とクレアははすに構えて微笑み、尋ねた。「もちろん、伝えるべきだわ。絶対興味があるはずよ。それに、あなたの気晴らしにもなるわ。」
クレアはそう付け加え、ジェイミーをちらりと横目で見た。
「あなた、まだ顔色が蒼いわ。」
「そうなんだ。どうもありがとう。」

彼女は、よい船乗りの持つ明るい屈託の無さを生かして笑い、ジェイミーの頭のてっぺんにキスをした。もちろん彼の額から突き出している4本の針は避けた。
それから船べりのそばに立ち、波にゆられる陸地が視界から遠ざかっていくのを眺めていた。

 ジェイミーは、この失望しそうな展望から目を逸らし、彼女の手紙に戻った。

 ファーガスとその家族もまた、とても元気だ。
だが、おかしなことがあったのは、書いておかねばならない。
パーシヴァル・ビューチャンプと名乗る男が・・・


 ビューチャンプと、彼がこちらに対して異常な興味を持っていることを書くのに、そのページのほとんどを使ってしまった。
ジェイミーはクレアを見上げ、ビューチャンプが彼女の家族とつながるかもしれないという可能性について、書くべきかどうか悩んだが、そうしないことに決めた。
(ブリアナ)なら、絶対母親の旧姓を知っているはずだし、すぐに気づくだろう。
苗字が同じという以上の情報はないのだし、手の痛みが激しくなってきた。

 クレアはまだ手すりの所にいた。片手を手すりに置いてバランスをとり、顔は何かを夢見ていた。
彼女はその豊かな髪の毛を後頭部でリボンを使って結んでいたが、風がそれを広げていた。
髪の毛とスカート、それにショールが後ろになびき、服の布地がいまだに完璧な胸の形を刻んでいるのを見ると、まるで船首の彫刻のようだった。
優美で荒々しく、深みに潜む危険から守ろうとする精神に満ちていた。

 ジェイミーは、そう考えると少し安心できることがわかり、自分に任された難しい内容にもかかわらず、前よりはよい気持ちで作文に戻ることができた。


さて、ジェイミーとクレアは、船の上で何をしているのでしょうか?
そう、イギリスへ渡り、スコットランドのエジンバラへ印刷機を取りにいこうとしているのですよ。
イギリスへは行けるのでしょうか?
それにしても、船の上で手紙を書くことができるなんて、ジェイミーに対する針の治療はずいぶん効くのですね。
よかったね、ジェイミー、どうせ間もなく又事件に巻き込まれるのだろうけれど!
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2011年1月29日 (土)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま23 ウィリアムの手紙2

またまた、お久しぶりでした!
こんなぐずブログですが、こまめなチェック、励ましのクリック、どうもありがとうございます。
ウィリアムが、養父ジョン・グレイに宛てて書いた手紙の続きです。


でも、僕は笑いすぎてはいけないのです。
アーノルド大佐のことを知れば知るほど(ここケベックでは、彼についてものすごくいろいる聞くのです)、彼は気骨のある紳士に違いないと感じ、おじいちゃんのサー・ジョージがいつも言っているように、『いつか僕は彼に会わなけりゃ』と思うのです。

外では、賛美歌を歌っています。
住人達が、近くの大聖堂に集まってきているのです。
メロディーは僕の知らないものですし、歌詞を聞き分けるには遠すぎますが、この高みから、松明の輝きを見ることができます。
鐘の音が、10時だと告げています。

(尼僧院長は、ある意味あなたを知っているのだと、言っていました。
 シスター・イマキュラータというのが彼女の名前です。
 彼女があなたの知り合いだと知っても、私はほとんど驚きませんでした。
 そして彼女に、あなたがカンタベリー大司教やローマ法王の知り合いでもある、と話したところ、次に法王にあったら、彼女からも謹んでごあいさつ申し上げていると伝えてくれと頼んでいました。
 彼女は私を夕食に招待してくれ、1759年にケベックを占領した時の話をしてくれました。
あなたが尼僧院に、たくさんのハイランダー達を宿営させたときの話です。
 兵士たちのむき出しの足に、どんなに尼僧たちが驚いたか、兵士たちにズボンを作るため、帆布をどうやって調達したのか、といったことです。 
 私自身のズボンといえば、ここ数週間にわたる移動で著しく傷んではいましたが、なんとか腰から下は覆われていたと、安心して言えます。
 間違いなく、尼僧院長も、ほっとしていたに違いありません!)

 
ウィリアムが手紙を書いているのは1776年なので、ジョン・グレイ達がケベックを占領した1759年は、17年前ということになります。
ケベック知事のサー・ガイ・カールトンは、1775年5月に反乱が始まったという報せを受け取り、その後間もなく反乱軍(アメリカ軍)にダイコンデロンガ砦
とクラウンポイント砦が奪われ、サンジャン砦が襲撃を受けたと知らされたのです。
それらの砦を奪い返すためにアメリカ軍のアーノルド大佐と戦うサー・ガイに対し、イギリス軍側の立場から接触するために、ウィリアムはカナダへやってきたのです。


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2011年1月 4日 (火)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま22 ウィリアムの手紙

あけましておめでとうございます。
また間をあけてしまいましたが、ぼちぼち続けたいと思います。



1776年12月24日 ケベック市

パパへ

 僕はこれをコンヴェント(修道院)で書いています。
急いだ説明になるけれど、コヴェント・ガーデンの変種などではなく、ウルスラ会の尼僧によって運営されている、本物ののローマカトリックの修道院です。

 ランドル・アイザック大尉と僕が砦に着いたのは、10月下旬のことです。
知事のサー・ガイを訪問し、アメリカ人たちの反乱軍側に附く地元の共鳴者に関する彼の意見を伺いたかったのですが、サー・ガイは反乱軍の暴動を個人的におさめようとサンジャン砦に進軍されたと聞きました。
 これは、ジョージ湖と細い支流でつながったシャンプレーン湖で行われた海戦(と呼ぶべきだろうか?)と発展しました。その辺の地理については、パパも昔ここにいらしたので、おわかりでしょう。

 僕は、サー・ガイの部隊に合流しに行きたかったのですが、ランドル・アイザック大尉はその距離と季節を考えて躊躇なさいました。
実際、大尉の判断が正しかったと証明されました。
というのは翌日、凍りつくような雨が降り始め、まもなく吹きすさぶ雪嵐になり、それは空が暗くなって夜も昼も判断できなくなるほど、厳しいものでした。あたりは数時間のうちに雪と氷に覆われてしまいました。
この大自然の脅威を見て、サー・ガイの部隊に参加する機会を逸した僕の失望も、だいぶ和らぎました。

 実は、どちらにしても僕は遅すぎたのでした。
というのは、交戦はすでに10月1日に始まっていたのです。
僕たちは、11月中旬にリーデゼル男爵の部隊にいたヘッセン(ドイツ)人の将校達が砦に着いてそのニュースを教えてくれるまで、詳細がわかりませんでした。
おそらくパパはその交戦について、この手紙を受け取る前にもう既に、もっと正式で直接記述された報告を受けていることと思います。
だからここでは、正式なバージョンでは削除されているような、いくつかの面白いことを書こうと思います。

率直に言えば今の僕には、そのような問題についての作文をすることくらいしか、することはないのです。なぜなら僕は、今日の真夜中にクリスマスの儀式として催される集会へ誘ってくださった、尼僧院長からの親切なご招待を断ってしまったからです。

(街の教会のベルは、15分に1回鳴って、昼夜を通して時を知らせてくれます。
 修道院の礼拝堂は、私が最上階に宿泊しているゲストハウスの壁のすぐ隣にあり、僕がベッドに入っているとき、鐘は僕の頭からおそらく20フィート(600メートル)くらいの所にあるようです。というわけで僕は自信を持って、ただ今の時刻は午後9時15分である、とお伝えできるのです。)


この章は少し長くなりますが、しばらくお付き合いくださいね。
(また、翻訳の間違いもお許しください。諜報活動関係の英語は、私の苦手な分野なのです。)
その次に、ジェイミーとクレアが出てきて、物語は大きな展開を見せます。

う~ん、そんなに待てないよ!早く書いて!
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2010年12月23日 (木)

An Echo in the Bone 骨の中のこだま21 ジョン・グレイ フランスへ

本当に、お久しぶりです。
病気以来ずいぶんと穴をあけてしまいましたが、こんなブログでもしばしば、あるいは時々チェックしてくださった方々、どうもありがとうございます。
またこれから細々と頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
(翻訳が出る前にはなんとか完了したいと思っているのですが・・・)

本のページを繰ってみると、何と偶然にも季節がちょうど一致するではないですか。
ハッピー・クリスマス!


 ジョン・グレイはドーバーへ向かって出発したときに、まだクリスマス気分で一杯だった。
実際、外套のポケットというポケット一杯に、砂糖菓子やちっぽけなプレゼントが詰め込まれていて、腕の中には悪名高い室内履きの入った包みを抱えていた。その室内履きとは、刺繍のスイレンの葉と緑のカエルがふんだんにほどこされたものだった。
ドッティーが室内履きを彼に渡した時、ジョンは彼女を抱きしめ、その耳に『よくやってくれたね。』とささやいた。
彼女は熱烈なキスをしてくれたので、ジョンはまだその感触が頬に残っている感じがし、無意識にそこをこすっていた。
 
 ジョンは、すぐにウィリアムに手紙を書く必要があった。
といっても実際には、特別に急がなければならないわけではなかった。
というのはどんな手紙でも、ジョン自身よりも早く送り届けられることは不可能だったからである。
自分でハルに言ったように、春になって船が航海できるようになったらすぐに乗船するつもりだった。
なんとか間に合えばいい、と思った。

 それは、ヘンリーのためというだけではなかった。
 
 

原因はわかりませんでしたけれど、全快したので、また頑張りたいと思います。
お久しぶりですね、のクリックくださると、励みになります!

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