小説

2010年2月13日 (土)

ヘリオット先生奮戦記

/ジェイムズ・ヘリオット/

著者名はペン・ネームだが、実在の獣医による体験談を小説にしたものだ。
1916年にスコットランドのグラスゴーに生まれ育ってそこの獣医大学を卒業し、獣医助手を募集する広告を見て、1937年にノースヨークシャーの山間部にやってきた。

短気だけれど人のよい獣医、シーグフリード・ファーノン先生と、その弟で頭がよいのに怠け者のトリスタンと『私』の3人の、珍妙な暮しが始まる。
頑固だけれど優しい村の人たち、個性に満ちた動物たち、そしてイギリスの田舎の美しい自然に囲まれて。

獣医の仕事を始めるとすぐ、大学の教科書にはまったく書かれていなかった汚れ仕事、不測の事態、厳しい自然に直面して、『私』の心に後悔がよぎる。
しかし動物や村人たちとの心の交流や往診の行き帰りの自然の豊かさに触れて、『私』は次第にその仕事の素晴らしさに目覚めてゆく。

ひとつひとつのエピソードが、ユーモアと愛情に満ちた筆運びに彩られている。
この本は、電車の中などでは読まない方がいいかもしれない。
読んでいて、思わずくすくす笑ったり、吹き出してしまう危険がある。
私は寝る前の楽しみに、少しずつ読むのが好きだ。

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贅沢の探求

/ピーター・メイル/

著者がプロヴァンスに移住する前に構想ができていたということで、田舎暮らしを楽しむエッセイストのものというよりも、マンハッタンとロンドンを股にかけていたコピーライターらしい内容だ。
いわゆる『贅沢』をテーマにしたもので、リムジンや愛人から手作りの靴やシャツまで25種が紹介されている。
私には手が届かなかったり価値を見いだせないものから、何とかなりそうなものまでいろいろあるが、知らなかった世界について楽しく紹介してくれていて、興味深く読めた。

中でも、ロンドンで誂える1足10万円以上の靴や、11万円以上のスーツ、パリでオーダーメイドする3万から4万円のワイシャツなどの章では、あくまでも客が心地良いように配慮してくれる、こだわりのある職人技について語られていて、それだけで一読の価値がある。

2人で3泊4日20万円の、ロンドンはコノート・ホテルにも泊まってみたい。
豪華というよりもイギリスならではの、洗練され落ち着いていて居心地のよい、上質な雰囲気を味わえるというのだ。
(ネットで調べてみたら、1泊5万6千円くらいで泊まれるようだ。
 ロンドンを訪れたら、試してみたいものだ。)
著者は、維持管理の大変な別荘を持つ代わりに、コノートの常連になることを薦めている。

タバコは吸ったことがないが、葉巻についての章を読むと、一度は味わってみたいという気持ちになる。

友人に連れられ自家用ジェット機を使って、プロヴァンスから突然100キロ離れたマルセイユまで昼食にブイヤベースを食べに行く話も、壮大な浪費であることは分かっていながら食べるものへのこだわりが痛快だ。

そう、何といってもこの著者は、食に関する話になると筆が冴えるのだ。

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2010年2月 7日 (日)

寂しいマティーニ

/オキ・シロー/

お酒にまつわる、21篇のショート・ショート。
都会に生きる男と女の恋愛をめぐる駆け引きがテーマで、ちょっとお洒落な雰囲気を楽しめる。

表題の『寂しいマティーニ』。

『わたしは、オリーブのささったスティックを人差指でグラスのふちに固定し、最初のひと口をゆっくりとすすった。冷たく、とろっとしたマティーニが、滑らかに舌にひろがっていく。そして、すっかり丸くなったジンの青い香りが、ふわっと鼻に抜ける。相変わらずうまいマティーニだった。』

酒飲みの醍醐味がここにある。
大酒のみではない。
うまい酒、雰囲気のある酒のことだ。

この章で取り上げられるのは、オリーブを抜いてすっきりさせたタイプのマティーニだ。
なぜそのマティーニが寂しいのか。
オリーブのない寂しさだけではない。
本を読んでください。

そんな短編が21杯分も、あなたを待っているのです。

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2010年1月27日 (水)

ソフィーの世界

/ヨースタイン・ゴンデル/

哲学者からの不思議な手紙

あまりに有名な本だけれど、再読してますます気に入った。
ある日、14歳の少女ソフィーは、『あなたはだれ?』とだけ書かれた一通の手紙を受け取る。
差出人はわからない。
それに私って、本当に何だろう?

毎回一つずつ出される宿題。
ソフィーは自分なりに考える。
手紙は、どんどん長くなる。
ときには、ギリシア哲学の歴史などに入り込む。
現実と物語が錯綜してくる。
話はどんどん複雑になる。

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2010年1月10日 (日)

ローラ  あざらしと少女

/ロウィナ・ファー/

10歳の少女『私』が、叔母とただ2人きり、スコットランドの荒野で暮らしていた。
ときどき近所の人と交流することはあるけれど、いつもの相手は主に動物たちだ。

ネズミ、カワウソ、リス、ツグミ、イヌ・・・アザラシのローラは、その中で一番頭のいい動物だった。
35個もの単語を理解するのだ。
ちなみにイヌのベンは、12個だった。

ローラはまだ子どもの頃、親とはぐれたところを漁師に助けられ、『私』が育てることになったのだ。

ローラとの日々は楽しかった。
次々といたずらを仕掛けたり、いっしょに泳いだり、音楽を楽しんだり。
ローラは木琴やハーモニカも演奏できるのだ。
しかもとても上手に。

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